入院生活を楽しむ
2020年5月4日 5月23日加筆  英語版
 思いがけず急性骨髄性白血病になり、2月から入院生活を送っています。白血病は今や「不治の病」ではなくなりましたが、抗ガン剤の副作用が辛いのと、長期入院(通常、約1か月単位の入院を5回繰り返す)が特徴です。メンタル面でくじけないことが大切です。開き直って「入院生活を楽しむ」! そのために私が行っていることをご紹介します。
 現在、3回目の入院が終わり一時退院中です。
●人間観察
 入院して強く感じたのは、看護師さんの献身的な活動です。常に患者に寄り添い、医師とのパイプ役になってくれます。患者が接する時間が一番多いのはその看護師さんです。
 新年度になり、私の病棟には新人さんが3名入ってきました。初めの内は血圧を測るのも不安げでしたが、1か月も経つと慣れたもの。初々しさの中に風格もでてきました。時間のある時には、「何故看護師になろうと思ったのですか」と進路指導的な質問をしてしまいました(私は42年間高校教員をしていました)。各人各様、それぞれに思いがあり興味はつきません。
 患者もさまざまです。大部屋に入っているので、複数の患者がいます。カーテンで仕切られているので、顔は見えませんが、看護師さんとの話は筒抜けなので、受け答えを含め、どのような人なのかわかってしまいます。なお、私の部屋では患者通しの交流は全くありません。賑やかに食事をしている女性の部屋もあるそうですが。
 病院は様々な職種の人からなっています。今直接お世話になっているのは医師、看護師以外に、看護助手、薬剤師、栄養士、清掃担当などの人たちです。こうした人たちの仕事ぶりから学べることは沢山あります。
●病院川柳
 私はギャグが好きなので、そうだ「病院川柳」を作ってみようと思い立ちました。
   晴天の 霹靂まさか 白血病
   痛くしない 麻酔の注射 いと痛し
   不治病<フジノヤマイ> 富士見の達人 立ち向かう
   点滴棒 持てて患者の 仲間入り
   ナースコール 深夜は迷い 指止まる (秀作)
   看護師の 笑顔に今日も 励まされ
   抗ガン剤 効いているのか 髪元気
   カテーテル 長くつければ 我が同志
   病室で 古希迎える日 桜<はな>満開
   入院は 人間関係の リトマス紙
 字余りがあったり、説明がないと意味がわかりにくいものもあると思いますが、俳句と違い季語を気にしなくてよいので、誰でも気楽に作れると思います。 
 3回目の入院(4月20日〜5月21日)では、FB(フェイスブック)で毎日発信していました(それだけ副作用が少なかった)。最後には必ず「病院川柳」を入れていました。
メールやSNSの活用
 FBで発信と書きましたが、隔離された世界にいるため、外に繋がるためにはメールやSNSは非常に役立ちます。スマホがあれば事足りますが、私はノートパソコンを持参し、病室からアクセスしています。
 家族との連絡はラインで、職場や知人とはメールで、そして「闘病記」はFBを使っています。ホームページには、「闘病記」をまとめて掲載していますので、興味のある方はご覧になってください(QRコードを読み取ってください)。 また地図関係の小文も幾つか病室から発表しました。
 FB等に載せたおかげで、卒業生や音信のなかった旧友、かつての同僚などからメッセージが寄せられました。医師や看護師になった卒業生には治療に関する相談もでき、「セカンドオピニオン」の役割を果たしてくれています。これもSNSの効用でしょう。
 ただし、中には善意からではあっても、原則論を書いてくる人がいます。病院食はまずくても必ず食べなければならない!など。適宜受け流すことも必要です。
●体温、血圧の予測
 1日何回か検温や血圧の測定がありますが、その値を事前に予測しようというものです。
 始めたのは5月1日。記念すべき第1回は、体温予想36.9度 実際37.0度 血圧(上)予想114 実際115。素晴らしい結果でした。やってみようという気になりました。
 このことを長年お世話になっている耳鼻科の先生にご連絡したところ、評価してくださいました。
 
 「検温や血圧の予測もとてもとても良い事です。これは退院後も続けられたらと思います。この事は一流の患者さんへの第1歩です。私もいつも朝・夜は予則しながらチェックしています。また、毎日の尿・便の性状を視診しています」。
 たまたま思いつきで始めたことですが、自らの健康状況を確認する上でも意味のあることだったようです。
●体温を地名で表す
 これだけでは何のことがわかりませんね。2回目の入院時に典型的な副作用なのですが、高熱が続きました。回診時に担当医に地図帳を見せながら「北朝鮮を徘徊していました。38度線を軽くこえ、39度のピョンヤンも過ぎ、最高(最北)は39.8度まで行きました」と説明したらよく理解してくれました。次の回診の時には、「今日は下がったようですね。韓国に戻れましたね」などと言ってくれましたので。「熱を緯度で表現した人は初めてです」とも言われましたが。第3回目は平熱が続き、もっぱら北関東の山で表しています。例えば36.8度なら日光白根山です。その後、北アルプス縦走にしました。36.3度槍ヶ岳、36.7度五竜岳。この表記は、10審経緯度と言われるもので、度分秒ではありません。地図に関する勉強にもなります(^_^)。いうことで入院生活にも地図は必需品です。
読書
 時間はたっぷりあるので、体調が良ければ読書三昧が可能です。つん読だった地図関係の本を何冊か読み終えることができたのは成果でした。気をつけなければいけないのはジャンルの選択です。比較的最近出版された山岳遭難の本を読んだのですが、これは失敗。体調が今一つだったせいもあり、遭難のリアルな記述に心理的に参ってしまいました。担当医がキリマンジャロやキナバルに登頂した本格的な山岳愛好家なので、持ち込んだ山の写真集をテーマに、回診時に山談義になることもあります。ちなみに今は、カミュの『ペスト』を読んでいます(笑)。
病院食の記録・食レポ
 スマホで簡単に写真が撮れる時代なので、多くの人が行っているかもしれませんが、3度の病院食の撮影です。私はそれに加えて、一緒に出されるメニューも写しています。テレビなどでは食レポがブームです。有名人の1週間の食事の様子を採点している週刊誌の連載もあります。白血病のように長期におよぶものを毎回記録するのは大変ですが、食事は何と言っても大きな楽しみ。こういう分野に関心のある方は、チャレンジされてはいかがでしょうか。ちなみに私は撮影だけです。そもそも「病院食 朝ダメ昼ダメ 夜もダメ」で、時によってはほとんど残してしまい、「食事後に コンビニ走る ごめんなさい」という状況ですので。
●入院生活を登山にたとえる
 長い入院生活。メリハリをつける必要があります。登山の縦走にたとえることができるでしょう。5回(5か月)の入院を八ヶ岳の縦走にしました。最高峰の赤岳から北上し、麦草峠に向かうのです。
 第1回目は最高峰の赤岳登頂です。初めての入院であり、最高峰なので、それなりに苦労がありました。第2回目は横岳。岩場があるので、ここも少々大変でしたが、無事登頂しました。第3回目は硫黄岳。横岳から硫黄岳は比較的楽なのですが、実際そうでした。高熱が出ないまま退院するのは珍しいと言われました。
 入院生活は折り返し点を過ぎたところ。今のところ順調ですが、この先どうなるでしょうか。第4回目は天狗岳。5回目は中山を越えて麦草峠へ。
 担当医はなかなか良いたとえと評価してくれましたが、最後が中山というのはちょっと甘いかもしれない、と脅かされもしました。
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 「病は気から」は時によっては問題のある言葉と思います。客観的な原因を見ないで主観に置き換えてしまうからです。しかし、「気の持ちよう」が病状に影響を与えることは間違いない、というのが入院3か月目の実感です。白血病の原因は一般的にはわかっていません。でも生まれて70年目に発症してしまった。なってしまったものは仕方ない。それなら開き直って入院生活を楽しもう、そんな立場で今行っていることを記しました。 
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