田代先生の楽しい地図教室 その2(第11〜20回)
11〜13回は原稿が見つかりません(^_^;)。出てきたので掲載します (2005年8月)
楽しい地図教室 その11 田代先生、あちこちで道に迷う!その2
前々回は町で道に迷った話だった。田代先生が道に迷うのは実は町だけではなく山でもそうなのだ。この連載の第1回目で、「ここでは恥かしくて書けない極めてポピュラーな山で“遭難”しかかったことがある」と書いた。もうすっかり恥をさらしているので、今回は山で迷った話をして、改めて地図の役割を考えて見ることにしたい。

●浅間山で降り口を見失った
 今からもう二〇年以上前の春休みに浅間山に登った時のこと。天気がぱっとしなかったが、「百名山」の一つでもあり、行けるところまで行ってみようと麓の峰の茶屋を出発。

 北側の鬼押出は溶岩ゴロゴロだが、登山道は砂地で、クッションがきいたような感じで歩きやすい。残雪もあったが、2時間足らずで山頂部に到着。期待していた山頂からの大展望は、ガスで視界ゼロ。地図には山頂部を半周できるよう登山道の表示があったので、火口にそってしばらく歩く。どこが最高点かはっきりせず、また三角点もないので、適当な所でよしとする。雨が降りそうな気配になってきたので、もと来た道を引き返すことにする。

 ところが! 降り口が見当たらないのだ。砂地の斜面がどこも同じように見える。後で気づいたのだが、火口周辺は立ち入り禁止になっていたので、普通ならいやになるほどある道標が一つも立っていないのだ。あらかじめ分かっていれば、目印をつけておいたのだが、後の祭だ。晴れていれば下まで見渡せるが、ガスで全く先が見えないので、どこが道なのか見当がつかない。

 踏跡のように見えるところを下り始めるが、どうも傾斜がきつく、道としては不自然だ。ピッケルが無ければ転んでしまいそうだ。これはおかしいとあわてて戻る。それを何回か繰り返している内に、後ろでバタバタと音がする。何だろうと振り返ると突然目の前が真っ暗になる。心臓が止る思いだった。暑くなったのでリュックに括りつけていたセーターが風であおられて振り向いた顔を覆ったのだった。思わず座込んでしまった。

 ちらつく“遭難”の2文字を振り払い、気を取り直して何回目かの下りを開始すると、今度は足が自然に動く。瞬間ガスが晴れて、周りとは明らかに違う道筋が現われる。良かった、これで戻れる。あとは来た道を辿り無事麓に降り着いた。

 教訓としては、視界が利かず、数bしか見えないような場合は、地図との照合は極めて難しいことだ。この時使った登山地図の縮尺は四万分の一。一_は四〇bで、等高線間隔は二〇bだ。これではほとんど違いのない微地形を読取ることは難しい。この夏林間学校の付添で登った蓼科山の山頂には「ガスの時に間違えないように」と書いた標識が立っていた。晴れていれば迷いようのないところでも、現地照合が難しい時は地図があってもお手上げだ。標識がないといかに大変かを再確認したできごとでもあった。

●赤城山でケモノ道に迷いこむ
 「極めてポピュラーな山」というのが実はこの赤城山である。秋の休日、赤城の最高峰黒桧山に登った。短時間だが結構きつい登りだ。それなりに人もいて、湖畔の土産物屋から流れる音楽まで聞こえてくる。観光地の山の宿命だ。湖(大沼)を右手に見るように下ればいいなと思ってどんどん道を下る。ところが下るにつれかえって湖畔の騒がしさが聞こえなくなる。どこかで道を間違えたのだ。分岐点はなかったように思うのだが。ケモノ道に入りこんだのかもしれない。まあ下ればいずれは着くだろうと気楽に考えていた。沢を下るのは危険だが、一応“普通の登山道”のようだから。

 しかし、その判断が甘かった。幾ら歩いても湖畔に辿りつく気配がない。落ち着け、落ち着けと冷静になり(なろうとし)、少し広くなった所で地図を広げて現地と照合しようとする。しかし、周囲は木立があり、見渡せる場がない。磁石で方位を確かめても、そもそも自分のいる場所がわからないので、どうにもならない。

 その年の夏、東北の山で初めてビバークをしたので、いざとなったらそうすればよいさと開き直る(実はその夜は豪雨となり、もしビバークをしていたら危ない所だった)。そろそろ日も暮かかり、率直なところこのままではまずいかもしれないと思い始めた頃、突然林道らしき道に出る。そして運良く、車で山菜取り(多分)に来ていた人に出くわす。結局その人の車で麓も麓、桐生まで運んで貰ったのだが、今以て、どこで迷ったのか、どの道に迷いこんだのか分からない。

 教訓。先と同様だが、見通しの聞かないところでは現在地の判断は極めて難しい。特に焦っているので、冷静に考えられなくなってしまう。焦るなと思うほど焦ってしまう。心理的な側面の重要性を強く感じた。 

●現在地の確認が地図の基本
 山で見通しが聞かない時に、五万分の一前後の縮尺の地図では、等高線の読取りから現在地を確定することは難しい。それが可能なのは二万五千分の一以上だろう(それでも細かい分岐の確定は難しい)。地図は万能ではないのだ。その道を再び戻ることが分かっている場合には、分岐点に標識などがなければ、自分で何らかの目印をつけておくなどの対策が必要だろう。

 最近話題になっているGPSは役に立つだろうか。この世界も日進月歩かもしれないが、一昨年試した例では、反応が遅く、かつ樹林帯では測定できず、残念ながら非常時にはちょっと使えないものだった。むしろ時計についている高度計が役立った。その日の気圧によって補正が必要になるが、あらかじめ高度がはっきりわかっている所で、ズレが幾らあるかを確認しておくと、全く見通しがきかないところでも、かなり正確に標高を知ることができる。垂直方向が分かるので、現在地の確認に大きな手助けとなる。あと何m上がれば小屋だ、山頂だということを正確に知ることができるので心理的効果も大きい(逆に、まだこんなにあるのか落胆してしまうかもしれないが)。

 いずれにせよ、地図の基本的役割は、現在地の確認につきる。
 そのためにはどのような地図でなければならないか、次回は再び町に戻って、現在地を確認しやすい地図の条件は何かを考えてみたい。

●FYAMAPコーナー
 FYAMAPの会員が7月末に三万人を突破しました。開設が一九九四年一〇月ですから、四年弱で達成ということになります。
 今やパソコン通信は古い、インターネットだ、という人もいます。確かにFYAMAPの母体であるニフティ社自体、インターネット接続を行うプロバイダになっています。画像と文章を別々に見なければならないパソコン通信は、インターネットのホームページと違って見栄えはよくないかもしれません。しかし、議論を交通整理してくれるスタッフがいて、打てば響くやりとりを公の場で行う(見る)ことができるパソコン通信の存在意義は依然として大きいと思います。
 ということで、今回は、パソコン通信自体の宣伝でした。でもFYAMAPの宣伝も一言。まもなく『富士山展望百科』(実業之日本社)が出ます。ヨロシク。
楽しい地図教室  その12 街の案内図をチェックする
地図の一番の役割は、未知の場所への道案内。しかし、街のあちこちに表示してある案内用の地図は必ずしも分りやすいとは限らない。駅で見かける鉄道の路線案内図も地図の一種だが、ちょっと見ただけでは理解しにくいものもある。
 街で不特定多数の人が見る地図は、どうなっていれば分りやすいだろうか。自分で分りやすい地図を書くことができるようになるためにも、まずは、街角のマップウォッチングから始めてみよう。

●向きは見た通りになっているか
 地図は北を上に描く、という暗黙の約束がある。しかしこれは一般的な地図の場合であって、どんな場合でもそうしなければいけないのではない。案内図の場合は、現地と地図の向きが一致するように描くことが何より大切だ。そのためには南や西が上を向いている地図でもいっこうに構わない。持ち歩く地図なら、方向が一致するように向きを変えればよいが、案内板はそうはいかない。首を斜めにしなければ現地と対照できない地図は減点だ。
 駅の路線図も、時には進行方向と逆に描いてあることがある。掲示してあるのが右側か左側かによって、書き方を逆にしなければならない。しかし、その配慮がなされていないと、位置関係がつかみづらく、分りにくい地図になってしまう。

●縮尺目盛はちゃんと入っているか。
 ○○分の1というより、図上の距離が実際にどの位になるのかを示す縮尺目盛が入っているかどうか。これがないと実際の道のりがわからないので、案内図としては失格だ。まあ、一軒一軒の名前がでている○図のような大縮尺図の場合は、ごくごく狭い範囲だけしか描いてないので、なくてもよしとしよう。
●省略が過ぎていないか、逆に詳しすぎないか。
 地図の大きな特徴は、縮小されていることだ。従ってどうしても省略して描くことになる。この省略が過ぎると、実際と違いすぎて、道案内の用をなさなくなってしまう。といって詳しすぎると、ごちゃごちゃして探しにくくなってしまう。地図の種類や大きさにもよるので一概には言えないが、現地との見比べができないほど省略してあれば減点。見るのがイヤと思ってしまうほど細かすぎるものも、やはり減点だ。

●角や交差点、目立つ建物がしっかり描かれているか。

 初めての場所で迷うのは、どこの角で曲ればよいか、ということだ。日本の道路にはあまり名前がついてないし、番地もしばしば飛んでいるので、現在地と地図との照合がやりにくい。そうした時に、大きな目立つ建物や、角のお店の名前などがはっきり記してあると、とても助かる。
 秋葉原でのこと。あるビルの周辺案内図に幾つかのビルが立体的に書いて
ある。一見分かりやすいかと思ったら、名前があるのは自社系列のビルのみ
。建物はすべてビルばかりだから、自社のビルだけ書いてあっても、識別が
できない。かえってイライラしてしまった。
 なお、バスの通るような幹線道路と裏道がちゃんと区別して書いてあることも大切だ。実際との照合に大変役に立つ。

●文字の大きさはどうか。

 駅の路線図などの場合は、特に文字が大きく書いてあることが必要だ。たくさんの人が遠くからも見るからだ。
 しかし、中にはこんなに小さい字が読めるかと怒りたくなるようなのもある(最近田代先生は、小さい字が苦手になってきているのだ)。文字を大きくすると書ける内容が減るが、路線図のように、注記量が少なくてすむものは、できるだけ大きな文字で書いてある方がよい。

●色の使い方はどうか。
 色を使えば、地図はとても見やすくなる。しかし、カラフルにすればよいかというと、決してそうではない。色見本でも見ているようで、疲れてしまう。鉄道路線図にそういう例が多い。10色以上使ってあることもある。そうなるとどうしても似た色を使うことになり、区別がしづらくなる。
 暖色は目立ち、寒色は目立たないという色の特徴も考えた上で、違和感のない配色を考える必要がある。

 地図は人に見てもらうものだ。作る人には、それを初めて見る人の立場にたった「気配り」を是非心がけてして欲しいと思う。そして、できれば、美的センスがあるものがいい。
 しかし、現実には、街の案内図には、見て楽しく、また分りやすいものはなかなか見当たらない。これは実は、日本の街並みの分りにくさ、ごちゃごちゃしていることの反映でもあるだろう。
 街の地図をチェックするということは、実は、私たちの住んでいる街そのものを見直すことにも通じるのだ。

●FYAMAPコーナー
 『富士山展望百科』好評発売中! 富士を見るということに徹底的に拘った、今までになった富士山本です。
 ラパン誌の記事を元にした個所もあります。富士可視圏ではこれから富士がよく見える時期になります。富士を見る上での情報がぎっしり詰ったこの本を片手に、山から、町から、鉄道からの富士ウォッチングを楽しんで下さい。
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楽しい地図教室その13 自宅までの案内図を作ってみる
 前回は町で見かける案内図のチェックだった。今回は自分で地図を書いてみることにしよう。
 学校の宿題やレポートで書く地図を別にすれば、私たちが書く機会の多い地図は何だろうか。きっと、最寄り駅から自宅や職場までの案内図だろう。
こうした地図を書く際にはどういう点に気をつけなければならないだろうか。
 実は前回述べたチェック項目が、書く上でもそのまま当てはまるのだが、まずは、実例から見てみよう。

●大学生が書いた自宅までの案内図
 田代先生は、現在、多摩ニュータウンにある大学で、週1回地歴科教育法という講義を行っている。内容は地図を中心としたもので、昨年最後の講義では、予告なしに、「最寄り駅から自宅までの案内図を書いて下さい」という課題を出した。その際、何点かはラパン誌に掲載します、ということも述べておいた。

 幸か不幸か、ラパン誌の私の連載を誰も読んでいないので、公平な?チェックができる。提出してくれたのは10人だが、誌面の都合で掲載できたのは3点である。
 個々の“評価”をする前に、全体に共通する点から述べていこう。
 町の案内図のチェック項目の最初は「向きは見た通りになっているか」だったが、一人を除いて皆、そうなっていなかった。つまり最寄り駅を上に書いているために、この地図を持って実際に歩こうとすると、天地を逆にしなければならない。そうすると当然文字もひっくりかえるので、見づらくなってしまう(掲載した3点ともそうだ)。
 最寄り駅から、というように起点がはっきりしている場合は、そこを下にして、目的地が上にくるように書くようにしよう。
 なお、掲載した地図を見て、実際に行ってみようという人がでると困るので(それで辿りつければよい地図ということなのだが)、駅名や、正確な自宅の位置はぼかしてある。その点ご了解下さい。

●完成度の高いMさんの作品
 では、Mさんの作品から。
 これは向きを別にすれば、できのよい作品だ。方位記号もちゃんと入っている。縮尺が入っていないが(他の作品も同様)、バス停が入っていることから見当がつく。バスが通っている場合、地図にバス停表示がしてあると、現地との照合に非常に役立つので、必ず記入しよう。
 手書きの地図の場合、縮尺目盛を入れることは難しいので、約15分とか、言葉で補っておくのも方法だ。
 通り名、商店街名や、至達(「←新宿へ」などのように、どこへ向かっているかの表示)が書いてあるのもよい。
 Mさんの場合、道路が格子状で分かりやすいということもあって、見やすい地図になっている。字もきれいなので、これなら迷うことなく訪問可ということで、肝心の自宅の位置は消してある。

●絵地図的要素を入れたHさんの作品

 次はHさんの作品。絵地図的要素が入っており、なかなか楽しい。駅は立体的にしてあり、Z川には水鳥も泳いでいる。ことさら男女の違いを言い立てる積りはないが、こういう表現は概して女性に多い。
 注記がしてあるのも特徴だ。駅をでてすぐの交差点に「すぐかわる信号あわてずに」と書いてあるのはとても親切だ。
 途中、道路を省略してある。このため、全体の道のりがわからなくなっているが、実際にはZ川という大きな目印があるので実際上は問題ないだろう。
 目的地の近くまでやってきたが、最後のところで特定できず、近くをウロウロしてしまうことがある。その点、Hさんは、迷いやすいポイントにはその旨を注記してあり(「見逃しやすい」)、その角から4軒目ということを書いているので、迷うことなく辿りつけるだろう。
 地図は図(絵)が基本であり、文字 による説明は可能な限り減らすべきという考え方があるが、少なくとも道案内図の場合は、両者は相補うものと思う。煩雑にならない範囲において、文による説明を入れておこう。

●大胆な省略でもわかるK君の作品
 3番目にK君の作品を見てみよう。いかにも男子のそっけなさがあらわれている、という言い方もできようが、実は案内図としての必要な条件は十分満たしている。方位記号もちゃんと入っている。至達もある。道路の交差点は名前があるものはその記載があり、そうでないものも、建物・店の名称があるので、進路の特定ができる。
 縮尺の見当がつかないのが問題だが必要な個所には店の名前が書いてあるので、クリーニング屋まで行けば間違いなくK君の家に辿りつけるだろう。

●案内図を書く上での注意点
 最後に、案内図を書く上での注意点をまとめておこう。
(1)最寄り駅から直線になっていない限り途中で地図の向きをかえなくてはならないが、駅を降りた最初のところで躓かないように、出発点を下にして目的地が上にくるようにしよう。
(2)縮尺を書けない場合は、所要時間でもよいので、目安になる長さ(に相当するもの)を示せるようにしよう。
(3)道のりにもよるが、通りの一本一本まで書くことはまずないだろう。省略をするのはやむを得ないが、現地との照合ができるように、要所要所の建物名やバス停などを書いておこう。
(4)交差点や曲がり角では迷うことのないように進行方向を明記すること。
(5)途中を省略する際にはそのことがはっきりわかるように。いうまでもなく省略してもよいのは、一本道が続いている場合だけだ。道が分かれている時に省略してあるととても不安になる。
(6)言葉による説明(注記)も適宜付加えておこう。一言添えてあると確認がしやすくなる。また、坂道などは地図による表現は難しいが是非書いておきたい。
 今回は徒歩を前提とした案内図の書き方を述べたが自動車の場合はおのずと異なった流儀が必要になる。
 案内図は、その場所を知らない人のためのもの。よい案内図を書くための基本は、相手の立場に立って物事を考えるという気配りにあると言ってよい。ということは、相手の立場になってものを考えるとができるかどうかという心配りが基本なのだ。

●FYAMAPコーナー
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楽しい地図教室  その14 センター試験の地図の問題
 今回の原稿を書いている年度末は試験シーズン。ということで、今回は、地図の試験問題を見てみよう。材料は、日本中の人が見ることができるセンター試験地理A、Bの問題である。問題と解答が新聞に掲載されるので、受験生でなくても、腕試しに解いて見た人が多いことだろう(新聞では縮小されているので、写真や図が見づらくなっているが)。
 地図と統計は地理の試験問題には不可欠だが、今年のセンター試験は、いつになく地図の問題が多かった。
 まずはこの問題から(図1)。

 地図上で面積を求める方法の一つに方眼をかけるやりかたがある。方眼の面積を仮に1としておき、その数を数えて近似的に面積を求めるのである。
周辺の場合は、0.5とか、0.3とか目分量で見当をつける。これで案外よく測定できる。
 この問題の場合もその方法が適用できるが、正攻法では時間がかかる。実はちょっとしたテクニックがある。縮尺が5万分の1だから、方眼1cm(掲載にあたあって縮小してある)は実際には500mだ。地図をよく見ると、湖は方眼4個の長さの正方形の中に収まっている。正方形の面積は2km2km=4平方km。解答欄を見ると@をのぞいてはみなこれより大きい。湖は正方形より小さいので、その値が正確にわからなくても@を選ぶことができるというわけだ。ちなみに、縮尺が5万分の1の時には図上2cm=現地1kmということを「公式」として頭にいれていた受験生は、それこそ10秒もかからないで、この問題を解くことができただろう。

 鳥瞰図についての問題もあった(図2)。誌面の都合で、地形図をカットしたが、この島を東側から見た図はどれかという問題である。
 断りがない限り地図の上が北であるから「右側」から見たのはどれかということになる。地形の特徴は明瞭だから、よほど不注意ミスをしない限り、できたことと思う。なお、世間ではGIS(地理情報システム)が賑やかだが、その反映もあってか、今年の問題にはGISを問うものがあった。これも「GISを用いて作成した鳥瞰図である」となっていた(解答の上ではGIS云々は全く無関係であるが)。

 久しぶりに投影法の問題がでた(図3)。
 センター試験に限らず選択式の問題の場合、選択肢の中から自信をもって正解を選べる場合と、よくはわからないがきっと違うと思うものを消していき、残ったものを選ぶという「消去法」がある。この問題の場合はどちらだろうか。
 地図は北極中心の正距方位図法であるから、Cの「北極点と任意の点の距離を正しく測ることができる」を迷うことなく選べるだろう。

 なお、Bの「高緯度地域に比べ、低緯度地域の面積は拡大される」は、少々意地の悪い内容である。この地図が赤道までの半球図ならこれは正しい。正距方位図法は緯線間隔を等しくとるので、面積は低緯度に向かうにつれ拡大してしまう。従って、正積方位図法にするには、低緯度に向かうにつれて緯線間隔を狭めなくてはならない。しかし、この国連のシンボルマークは南緯60度までが範囲になっているので、赤道をこえて高緯度地方に向かうとさらに拡大することになる。南半球では、低緯度地域よりも高緯度地域の方がより拡大されることになるので、これは。地図投影法をしっかり勉強していると、もしかしたら悩んだかもしれないが、あまりにはっきりした答えが選択肢にあるので、この問題の正答率は高いかもしれない。

 近年大きなブームになっている伊能忠敬の地図についての出題もある。大日本沿海輿地全図の中国・四国地方を使っての問だ。

 「この図の特徴について述べた文として誤っているものを、下の@〜Cのうちから一つ選べ」というもの。選択肢は次の通りである。
@島や岬から引かれた直線は測量のための線を示している。
A右端には方位盤が示されている。
B空白部は未踏査地域を示している。
C「西一度」の線は東経135度の線を示している。

 地図をみなくても見当がつくだろうか。センター試験の紙は上質紙ではないので、細かい写真を見るにはちょっと辛い。@のような質問は少々問題があるように思う。答えはCである。「西一度」は姫路から鳴門海峡の付近を通っている。135度の線は、明石(海峡)から紀淡海峡を通るので、これが違う。日本標準時子午線とはいえ、試験問題用紙上で6mmのずれを問うのが果たして妥当かどうか議論の余地があるところだ。「消去法」で見当がつく問題ではあるのだが。
東アジアの古地図についての出題もあった(図4)。古いものから順番に並べよというものである。このような地図史に属する内容はまず授業では扱わないが、こうした場合は、問題文にヒントがある。「世界地図は地理情報の増大に伴い次第に正確になっていった」という冒頭の文がそれである。海岸線の形に注目すればよいわけだ。3枚の中ではアが一番正確である。ついでウ。イが一番アバウト。ということで、いわば“常識”で解くことができる問題である。

 分布図、統計地図もよく使われている。一つ例をあげておこう。
 図5は、IC、化学繊維、コンピュータ、セメントのおもな工場の分布を示している。この中からコンピュータ工場に該当するものを選べというものだ。地図を使った問題としては定番に属するが、ICとコンピュータをぶつけているところが特徴といえようか。九州が「シリコンアイランド」と言われることは中学の教科書にも出ている。@がそうである。そのICなどを使ってコンピュータを組み立てる工場は、首都圏に集中している。さらにコンピュータメーカーの一つであるエプソンが長野県にあることを知っていれば、@〜Cの中で長野県に分布が見られるのがCだけであることから、これが正解ということが確認できるだろう。

 意外に簡単と思われただろうか、それともやっぱり地図は大変と思われただろうか。
 単なる暗記力・知識を問うのではなく、図や資料からいろいろな事柄を読み取る、というのがこの業界では一種のブームになっている。それを論述式ではく、客観テストにすると、こんなところに落ち着かざるを得ないのだろうか。
楽しい地図教室 その15 使いやすい道路地図の条件
 田代先生は、20数年前、5か月入院する交通事故に遭ったことを理由のひとつにして、自動車免許をとっていない(教員免許はある)。しかし、自動車に乗ることは嫌いではないので、タバコ臭くなければ、同僚の車などに文字通り便乗させて貰うことがある。
 特に最近は、「山の展望と地図のフォーラム」の仲間と車で出かける機会が増え、助手席で“人間ナビゲーター”をつとめている。 今回は、助手席でのナビ経験をふまえて、どんな道路地図が使いやすいかについて考えてみよう。

●多様な道路地図
 書店のコーナーを覗くと各社から様々な道路地図が出版されていることに驚く。一つの会社が何種類も出している。それだけ需要が多いのだろう。
 登山やウォーキング用の地図は携帯に便利なように小さいのがよいが、車の場合は、中に置いておけばよいので、大判でも構わない。そんなこともあって、ますます種類が増えるのだろう。
 本の作りも流行があるようで、最近は開いた箇所がそのまま維持できるリング形式のものが目立つ。そのリングを背表紙で覆うようにしたものもあって、この世界の競争も激しいようだ。 目移りがして選択に困るほどだが、余裕があれば複数入手し、使い比べてみて、相性のよい道路地図を見つけていこう。

●2種類の縮尺の地図があるとよい  歩くのと車で走るのでは、適切な地図の縮尺は違ってくる。縮尺が小さいと、現在地の確認が難しくなる。10万分の1の地図しかなかった時に、複雑な交差点で、90度間違った道に入ってしまい、行けども行けども目的地に着かず、困ったことがあった。かといって縮尺が大きすぎると、すぐにページをめくらなくてはならない。1万分の1は歩行者にはよいが、車には向かない。

 ナビを始めて間もない頃は、「あっ、今過ぎた所が曲がる所だった。戻って」と言うと、「先に言ってくれなくちゃ。車はすぐにはバックできないんですよ!」と怒られたものだった。歩く場合と車で走る場合の速度の違いを体で覚えるのにしばらく時間がかかった。
 そんな経験をする中で得た結論は、初めて走る一般道のナビにふさわしい地図は3万分の1程度の縮尺ということである。

 ただし、目的地までどのルートで行くかを知るにはこれでは大きすぎる。通常のA4判の地図帳では、あちこちページをめくらねばならず、ルートのイメージがつかめない。そのためには広域を示した小縮尺の地図が欲しい。そういう要望が強いからか、索引図をかねて県全域を一枚に収めた地図を添付している道路地図もある。 用途に応じて、縮尺の違う地図を使い分けることが必要である。

●不可欠な注記
 道路地図の場合、目的地に至るルートを知ることが基本だから、現在地の確認がしやすいということが使いやすさの一番の条件になる。このためには、交差点や信号など、走る上で不可欠で、現地でいやでも目に入るものが記載されていなければならない。バス停も是非ほしい。郊外に出れば、ガソリンスタンドや各種郊外店舗などはよいランドマーク(目印)になるので、できれば固有名詞入りでの記載が欲しい。ガソリンスタンドを各社のマークで示している地図があるが、これは識別性のよい方法だ。
 意外に記してないのが橋とトンネルの名称。ランドマークになるものの地名は、スペースが許す限り記入して欲しい。

●道路や建物の表示
 道路の表現は道路地図の命である。一般に道路の幅は実際より拡大されている。縮尺通りだと小さくなって見づらくなるからである。地図上では幹線道路と同じような太さになっているが実際はすれ違いがやっとという可能性もあるので、10万分の1程度の縮尺の場合は要注意だ。3万分の1以上なら、ほぼ縮尺通りになっていると考えてよい。すべての道を正確な幅員にして、現存する家屋をすべて網羅したのを特徴にしている、さらに大縮尺の地図もある。
 立体を平面にする地図の宿命であるが、建物の高さは地図からはわからない。それが現地での確認をしにくくする原因の一つだ。拡大図では、建物を立体表現したものもあるが、目印になる高層建築物は、3万分の1程度の縮尺においても立体表現ができると便利である。

●地形表現、経緯度表示など
 自動車だから坂道であろうが平坦であろうがあまり気にすることはないが、等高線があれば、道路の湾曲の理由もわかるので、あった方が望ましい(急坂表示のある地図もある)。また広域図の場合は、レリーフ表現になっていると、地図としての精密感が増す。 GPSが普及し始めて、位置をデジタルで示す機会も増えてきた。中には図郭に経緯度表示をしているものもあるが、まだ例外である。索引用のメッシュは切りのよい値で引いてあるが(500mなど)、これを経緯線を基準に引くようにはできないだろうか(東京付近で、緯度差1秒は約30m、経度差1秒は約25mになる)。いわゆる紙地図においても、位置をデジタルで示す時代がきているように思う。

●難読地名の扱い
 地名の読み方は難しい。現地の交差点と地図との照合ができても、何と読むのかがわからないとちょっと辛い(現在地の確認に支障はないが)。できれば難読地名にはルビが欲しい。スペースの関係でそれが難しければ、欄外を利用したらどうだろうか。律儀に各ページに凡例が載っていることが多いが、地名情報の記載の方が、情報としては価値があるだろう。

 色使いや注記量などについては、第12回で述べた内容と重なるのでそれを参考にして欲しい。いくつか注文もつけたが、ごちゃごちゃした日本の道路事情を考えると、日本の道路地図はかなりの出来と言ってよい。各社がよい意味での競争をして、消耗品ではない道路地図を作りあげていって欲しい。

●FYAMAPコーナー
 今年4月から、FYAMAPに新しい会議室が発足した。「Web会議室」と呼んでいる。今までは文字だけしか書けなかったが、今度はホームページのように画像も一緒に載せることができる。会議室のホームページ版と考えればよい。これは、ブラウザと呼ばれるホームページ閲覧ソフト(ネットスケープやインターネットエクスプローラが代表)で見ることになる。
 FYAMAPの会員になっていなくても NIFTYSERVEのIDがあれば誰でもOKだ。どんな内容か、興味のある人もない人も覗いて欲しい。 URLは次の通りです。
https://www.nifty.ne.jp/square/FYAMAP/1
楽しい地図教室  その16   略地図を考える
 中学、高校の地理で略地図が脚光を浴びようとしている。新しい学習指導要領の下、略地図が教科書で正式に扱われるようになるからだ。先般発表された学習指導要領には次のように記されている。
「大まかに世界地図を描けるようにすること」「大まかに日本地図を描けるようにすること」(中学校)「略地図の描画については、世界地図の全体や部分が描けるようにすること」(高校)。

これでますます地理・地図が好きという人が増えるだろうか、それとも逆だろうか。今回はこの略地図について考えてみたい。

 なお、学校で略地図を扱う意義については『地理』(古今書院)1999年6月号に特集がある。私もそこに「授業の略地図の書き方」という文を書いた。文献紹介もあるので、お読み願えれば幸いである。

●一筆書き的世界地図
 図1は、『地理』誌にも紹介したものだが、中学時代の恩師杉山慈郎先生に教わった、一筆書き的世界地図である。3秒で書ける世界地図でもある。ユーラシアの北側から始め、南北アメリカに渡りアジアに戻り、アフリカで終える。日本とオーストラリアをその後で付け加えることになる。
 杉山先生が黒板にさらさらっと書かれた時は、思わず感嘆の声があがった(ような気がする。何しろ37年前のことだ)。今自分が黒板に書いても、やはりそれなりの反応がある。それはこの地図が、略地図の基本を押さえているからだろう。南北アメリカはちゃんと描かれている。ユーラシア大陸もOK。インドシナ半島は省略しているが、インド亜大陸はちゃんと表現されている。アフリカも大丈夫だ。
 大胆な省略をしてシンプルな簡単な図になっているが、本質的な部分を損なわない。これが略地図の本質なのだ。簡単は感嘆に通じるのである。

●略地図の“暗黙の前提”
 地図は丸い地球を平面に写したものだから必ず歪みが生じる。どんな図法を使うかによって世界はさまざまな形に姿を変えるのだ。このことは略地図を描くときにも関係がある。図2はある大陸の略地図である。どこだろうか。またどんな図法によるものだろうか。勘の良いラパンの読者の皆さんならお分かりだろう。南米大陸を東京中心の正距方位図法で描いたものだ。そんな…、とブーイングも聞こえそうだが、立派な、意味のある略地図であることは間違いない。

 しかし、これが多くの人に(多分)支持されないのは、イメージとして持っている南米大陸と随分違うからだろう。球面上の形を平面にそのまま正しく表すことはできないのだが、それに近いのは地球儀を見た時の形だ。図2はその形に反しているからだ。
ちなみに図1はメルカトル図法を南北方向に圧縮したミラー図法をベースにしている。教科書などによく出てくる地図なので、形における違和感は少ないだろう。日本が真ん中になっているのも多くの日本人には好意的に受け止められるだろう。
 多くの人がすぐに認める世界規模の略図には、“暗黙の前提”があるといえよう。

●難しい日本の略地図
 世界については投影法の問題があるが、日本および各地方の場合はそれは気にする必要はない。ただし、日本全体の略地図は難しい。北海道から沖縄まで細長くなるし、沖縄をカットしても(ごめんなさい)、バランスがとりにくい。複数の島からなる場合、その島の形だけでなく、配置を正確に描くのに神経を使う。しかも本州のように湾曲しており、かつ半島があちこちにあると、もっともらしく描くのに骨がおれる。他国に比べて、一応よく知っているがゆえに省略がしにくい、ということも難しく感じる大きな要因だ。見る方も、自分が書けるかどうかは別にして、あれこれ指摘が厳しい。
 略地図の用途に応じて、省略のレベルを考えて、描きわけることが必要だろう。

図3は、比較的詳細な北海道の略地図である。この程度でも一気にかけるようになるには、相当の練習が必要だった。生徒が眠そうにしていると、授業の流れとは関係なく、黒板に書くことにしている(そもそも高校では日本地理はほとんど扱わない)。すると、「さすがに地理の先生」という尊敬のまなざしが・・・、とまではいかないが、時には拍手がおこることがある。

 ただ、困るのは、日本全部を書いて、とリクエストが出ることだ。現在鋭意練習中ではあるが、とてもこの精度で全体を書くことはできない。「また今度ね」、といつも逃げているが、新指導要領が実施されるようになると、そうもいかなくなるだろう。それまでの数年間、しっかり練習に励むことにしよう(特に中学の地理担当の先生、試練の時が迫っていますよ)。

●練習の方法
 上手な略地図を書けるようにするにはどうしたらよいか。文字と同じでいわば先天的・遺伝的な美的センスによるものが大きいかもしれないが、もちろん訓練によって誰でもある段階には達することができる。
 パソコンの時代に原始的?ではあるが、地図をなぞるのである。具体的には、地図帳を開き適当な地図を選んで省略の程度に応じた「略地図原図」を作る。何枚もコピーして、あとはそれをひたすらなぞるのである。書いては消し、消しては書くという試行錯誤もよいが、できれば一筆書き的に一気に書けると美しい。略地図の美学である。
 その際におもなポイントの相互の位置関係を把握しておくことが必要である。

 本州を例にあげれば、三陸海岸の描く弧と、阿武隈の海岸から鹿島灘への弧がほぼ同じになっていることを知っておくと書く際にリズムに乗れる。東北日本と西南日本の傾きが約120度になっていることを押さえると、それらしい日本列島になる。
 この際、日本の形を色々な角度から眺めて欲しい。できあがる地図は省略した簡単なものであっても、それを作るためには、地図をじっくり眺めて、沢山の情報をインプットしておかなくてはならない。その上で大胆に捨てていくのである。たかが略地図だが、実に奥深いものがある、と感じるのは私だけだろうか。

●FYAMAPコーナー
 FYAMAPのホームページでは、皆さんから写真を募集しています。ホームページのトップに掲載いたします。山や地図に関連するものなら、何でも構いません。実写ではなく、コンピュータグラフィックでも構いません。ただし、デジタル画像でなくてはなりません。よしよし提供してあげよう、という方がいらっしゃしましたら、ご連絡下さい。
FYAMAPのホームページ
http://www.nifty.ne.jp/forum/fyamap/index.htm
楽しい地図教室   その17 生徒の作った変形地図
(カルトグラム)
 毎年夏休みに、高校1年生に「夏のプレゼント」をあげている。中には結構です、という謙虚な生徒もいるが、別名“夏の宿題”だから、受け取り拒否はできない。
 ところで今時の高校生は多忙である。ほとんどをクラブの練習で費やす者、塾通いに忙しい者、アルバイトに明け暮れる者、そして外国にホームステイに行く者等など。従って一律のテーマで課題を出すことが難しく、沢山のメニューから選べるようにしている。

 今年の場合、大きく8つのテーマを設けた。
 地図、紀行文、登山レポート、立体写真、パソコン、海外生活体験、社会的問題、その他自由課題。
 それぞれのテーマの中でさらに細かく分けている。地図の場合、その一つが、変形地図(カルトグラム)の作成だった(他は「日常生活(新聞、雑誌、街頭など)で見かける各種地図の点検」「面白マップの作成」「学校周辺生活地図の作成」「立体模型の作成」「地図の間違い探しとその後」「その他」である)。

 変形地図は各クラス数名が選び、力作も多かったので、幾つかを紹介しよう。ちなみに変形地図とは、ある事象を強く印象づけるために、ベースになる地図自体の形を大きく変えたものである。
 図はいずれもカラーで描いてあり、かなり大きいものもあるが、紙面の都合でモノクロにし、縮小してある。

●GNPで描いた世界地図(椎橋徹夫君)
 カラーでお見せできないのが残念な見事な作品である。表計算ソフトのエクセルで作成している。1マスが100億ドルになっている。データは1996年。こうした変形地図の場合、国の位置関係をかえない、できるだけそれらしい形を維持するという制約があるので、それをディスプレイ上で行うのはさぞかし大変だっただろう。作品と一緒に提出してくれたフロッピーディスクには制作過程を示す途中経過の図も入っていた。

●飛行機による東京からの最短所要時間(鵜飼加奈子さん)
 やはりエクセルを使った作品。グラフ作成機能(レーダーグラフ)を効果的に使っている。6つの作品の内の一つ。他に鉄道や、運賃などで作っている。基礎データの作成に随分時間をかけており、作成の経過や改善点などについても詳しい報告をしている。「また是非変形地図を作ってみたい。都道府県に限らず、他の観点から見て、自分の作った地図でいろいろなことを考えてみたいと思う」と締めくくっている。追加プレゼントをあげたい心境だ。

●東京駅起点鉄道による所要時間で見た本州(田中規博君)
 現在使っている教科書にもとになる図はあるが、データ更新が大変で、当然形も違ってくるので、作業に苦労が多かったようだ。教科書の図を拡大コピーし、それをベースに書き改めていく。所用時間を調べるのに、パソコンソフトの「駅すぱあと」を使ったとのこと。やはり時代を感じる。
●人口で見た東京23区(小沢麻由子さん)
 勤務校が東京にあるので、東京を扱った作品が幾つかあった。その一つである。感想文の一部をご紹介しよう。「作りながら、何度「疲れたなァ。もうやめたい」と思ったことか。しかし作り終えた今、「面白かった」と思っている。充実感というものだろうか。決められたマス数で、いかに元の形に近く一つひとつの区を作っていくか。単純に見えて一番困難な作業だった。・・・終えてみて、何故東京都全てをしなかったのだろうかと後悔した。そうすれば、もっと“傾向”というものがわかったのに」。ポイントを的確に押さえているのに感心する。

 変形地図には、常識を覆す面白さがある。
皆さんもチャレンジしてみてはいかがだろうか。そうそう、若干の未提出者には、「冬のプレゼント」をあげなくてはならない!宿題は期日までに必ず出しましょう。
楽しい地図教室 その18 
2000年代最初の年の年賀状の地図
 今頃年賀状の話題なんて、としかられそうだが、この原稿を書いているのが正月ということと、何しろ二〇〇〇年代最初の年なので、それを記念する意味もあって、今年届いた年賀状の中から地図に関するものをご紹介したい(本人の許可をえている。個人の場合、氏名等は伏せている)。

 1は、ある出版社からのもの。竜にちなんだ市町村が示してある。ガイドブックを作っている会社らしいというべきか。同様竜のつく山の地図を作った方もいらっしゃるのではないだろうか。山梨・静岡県境の竜ヶ岳は、元旦に「ダイヤモンド富士」を眺めることのできる山ということで、昨年末に急遽登山道が作られた。

 2は、毎年干支にちなんだ年賀状を下さる方のもの。最近はこのように、世界編が多い。図法名もきちんと書いてある(今年はエイトフ図法)。

 3は何とも変わった世界地図が沢山描かれている。自作のソフトで描いたものだ。こういうことができる人は限られているので、あっ、あの人かと見当がついた方もいらっしゃるのではないだろか。どういう図法なのかご本人に伺ったので参考までに記しておこう(番号は説明のために便宜上つけたものである)。

@サンソン図法を変形(面積は正しい)Aランベルト正積円筒図法を変形(面積は正しくなくなっている)B平射円錐図法Cサンソン図法を変形(図法的には意味はない)Dボンヌ図法を変形(同じく図法的には意味はない))Eネルハンメル図法を変形(面積は正しい)Fヴィンケル第3図法を変形(標準緯線90度)地図投影法の観点から真面目に考えると邪道だが、少しでも身近に地図作成の手法を感じてもらえたら、というのが作成の意図とのこと。とにかく見て楽しいことは間違いない。

 4は、やはりプロの方の作品。実物は綺麗なカラー印刷だ。地球儀を見たような正射図法による半球図が3点並べてある。地勢表現になっており、手間がかかっている作品だ。

 5は、モルワイデ図法のように思えるが、丸すぎる。極の位置、経緯線網からもなかなかひねりのある地図になっている。何図法で描いたものだろうか、興味ある方は考えてみて下さい。
さて、私はどんな年賀状だったか。来年のお楽しみ、ということにしておこう。

●お知らせ●この「楽しい地図教室」がもとになり、地図の本ができました!
 
田代博・星野朗編著『地図のことがわかる事典』(日本実業出版社 一五〇〇円。二月末刊行)。
 章は次の通りです。
序章 私たちの暮らしと地図 
1章 知ってると見方が変わる地図の 基本 
2章 丸い地球を平面に表現する投影 法
3章 地形図を読みつくす
4章 こんなこともできる!地図の使 い方
5章 地図に歴史あり
6章 色々な地図
7章 社会の中の地図
8章 世界の地図事情
9章 地図の近未来形 
10章 自分の地図を作ってみよう
巻末資料


 FYAMAPの皆さんにもいろいろ協力して頂きました。
 最近地図関係の本がたくさん出版されていますが、地図投影法にある程度度スペースを割いたのと(2章)、社会的視点から地図を考えたこと(7章)、パソコンで扱うデジタルマップについて具体的に紹介したこと(9章)などが特徴になっています。
 あっ、あの話だな、と思われる部分もあるかもしれませんが、少なくともコストパフォーマンスにおいてはお買い得感のある本だと思います。 是非ご覧になって下さい。
楽しい地図教室 その19 地図の町、佐原
●前回宣伝させて頂いた『地図のことがわかる事典』(日本実業出版社)に「地図にちなんだお菓子」というコラムを書いた。地図にちなんだチーズ味のお菓子があれば出来過ぎだ、というダジャレめいたオチをつけたのだが、何とすでに存在していたのだ。

 3月下旬、遠足の下見で千葉県佐原市を訪ねた。非常に精密な実測日本全図を作成した伊能忠敬の旧宅や記念館があるところとして有名だ。土産物などを販売している忠敬茶屋で見つけたのが、その「地図ケーキ」。ナチュラルチーズを使用した、チーズケーキである(図1)。「地図」の部分にごていねいにも「チーズ」とルビがふってあるではないか。味はなかなかのものでした。他にも、地図サブレーや(図2)、千葉県や日本列島の輪郭が図案化された焼き菓子があった。探せばもっと見つかるかもしれない。
 ということで、今回は、地図菓子の町、ではなかった、伊能忠敬ゆかりの佐原市に関する地図について述べてみたい。

●私が観光案内所などで入手した無料の地図は次の通り。
・水郷さわら観光マップ(カラー版、単色版)
・地区の見どころマップ(地区の概略と主な建物)
・佐原・文学碑マップ
・観光誘導マップ
・観光情報マップ
・さわらの町並み

 基本になるのは、図3に示した水郷さわら観光マップだ。観光協会の方が試行錯誤の末に作り上げた労作である。佐原の観光ポイントといえば、古い家並みが残っている小野川沿いで、その建物の形がよく描いてある。右に左に寝ているように見え、文字も逆さになっているが、歩いていく通りに地図を合わせれば、目に映るのと同じ形になる。
この地図があれば、どんな“地図音痴”の人でも、道に迷いようがないと思うが、自信のある人?は、試して欲しい。

 誌面の都合でこの地図全部を載せていないが、周辺部(上の方)には、鹿嶋臨海コンビナートのあたりまで入っている。つまり鳥瞰図風に遠方まで入れ込んであるのだ。ということは、縮尺を表示することが難しくなる。付近のもう一つの観光スポットである香取神宮も、ちょっと歩けば行けるかのように見える(四〇分近くかかる)。
 この地図が初めてできた時はそれに対する“苦情”もあったようで、今は、忠敬橋を起点として、おもな場所までのおおよその方位と距離が記してある(図4)。苦肉の策と思うが、これは一つの表現方法である。

 ちなみに、一枚の地図の中で、意識的に縮尺を変える方法がある。狭い地域に分布が集中している場合、そこを大縮尺にして、周辺は小縮尺にするのである。縮尺の大小がわかりにくければ、中心部は拡大、周辺部は縮小、と言えばお分かり頂けるだろう。中村和郎・高橋伸夫編『地理学への招待』(古今書院一九八八年)の「分布図による表現−地図を歪める試み」には、そうした観点から描かれたユニークな地図が何枚も載っているので、図書館などで見て欲しい。

●伊能忠敬に関して少し触れておこう。一九九八年に新しく伊能忠敬記念館が作られた(大人五〇〇円)。立派な記念館である。伊能図や測量に使った道具、記録帳などを間近で見ることができる。展示品などの解説書が用意されておらず、忠敬茶屋で買うしかないのがちょっと残念である。裏に大きな駐車場があるので、自動車利用者にも便利だ。小野川にかかる樋橋(ジャージャー橋)を渡れば旧宅がある。この辺りは電線が地中化されているので、非常にすっきりした景観になっている。忠敬橋から駅寄りにかけても是非実現して欲しいものだ。旧宅は入場無料。庭には伊能忠敬の像もある。

 もう一つ大事なことがあった。今世紀最大の鳥瞰図画家ベラン氏が、佐原付近の鳥瞰図を描いているのだ(ベラン氏については、『地図のことがわかる事典』の「写真より迫力があるベランのパノラマ画」をご覧下さい)。記念館に2点作品が展示してあり、その内1点は複製を忠敬茶屋で購入することができる(一五〇〇円)(図5)。

●佐原が、単なる観光地と違うのは、町を大切にしようという地域の人々の思いが感じられること。「小野川と佐原の町並みを考える会」や「佐原町並み案内ボランティアの会」が熱心な活動を行っている。「山の展望と地図のフォーラム」では、ある観光地の「商魂第一主義」を巡って、ちょっとした議論が起こっていた。歴史的背景や地域における諸々の事情があるにせよ、佐原には「豊かさ」を感じさせる何かがあった。
 東関東自動車道を使えば、東京方面からのアクセスもよい(佐原香取ICを降りればすぐ)。十分な時間をとって、じっくりと地図散歩をしてみたい町である。

*連絡先:水郷佐原観光協会0478−54−1111)町並み案内ボランティアの会(会長吉田昌司さん)
楽しい地図教室 その20 楽しみがつきない地図の世界
 楽しみと言っても色々だが、地図の場合、「あら探し」ができるという、いささかいじわるな楽しみもある。
 この原稿は九州・沖縄サミットが開催される目前に書いているが、外務省が作成しているサミットの公式ホームページの地図が問題だらけなのだ。
ということで、お楽しみのその一はサミットの地図を題材に・・・。

●地図は図法に注意!図1が、問題の地図である。これは外務省が作成している、九州・沖縄サミットの公式ホームページである。沖縄の位置を示したこの地図のどこに問題があるだろうか。細かい地名などは読みにくいが、那覇中心の同心円と経緯線はわかるだろう。
その地点からの等距圏が円で示された地図を見た時には要注意である。新聞などのマスメデイア(こうしたホームページを含めて)に掲載される地図のかなりのものは、間違っているからである。
 等距圏が円で示されるためには、地図はその地点中心の方位図法でなくてはならない(特に正距方位図法が望ましい)。しかも、その地図は既製の地図を流用しては駄目で、その地点を中心に、その都度描かなくてはならない。

 テポドンが話題になった一九九八年九月、新聞各紙は北朝鮮中心の地図を載せたが、東京中心の正距方位図法なのに、北朝鮮の日本海側を図の中心にして掲載した新聞もあった。ちょっと見たのでは気がつかないし、大した影響もないと思われるかもしれないが、中心の位置が一〇〇〇km近くも離れているので、方面によっては方位角が一〇度近くも違ってしまっていた。
 この外務省作成の地図も同様の間違いをしているようだ。この図の範囲程度ならどんな図法でも影響はないと思ったのだろう。よく見かける円筒図法の系統の地図をもってきて(経緯線が直線で、直角に交わっているのが特徴だ)特に何も考えずに、コンパスで円を書いたに違いない。その結果、那覇から二〇〇〇km以上あることになっている仙台は、実は一八〇〇kmちょっとに過ぎないので、一割以上遠くになってしまっている。
 これは些細なことと思われるかもしれない。しかし、説明文の中には、「沖縄県の県庁所在地である那覇と東京間を半径とする、1500kmの円内には、上海や台北、香港、ソウル、マニラなど、アジアの主要都市があります」とあり、同心円が大きな意味を持っていることがわかる。それであるならば、より正確な記述を心がけて欲しかった(ちなみに、東京−那覇は約一五五四kmある。それを一五〇〇kmと表現するのもアバウト過ぎる)。

●地図投影法軽視のツケ・・・?こうしたミスが起こるのは何故だろうか。丸い地球を平らな紙の上に表現するのだから、色々難しいことがあるのはわかる。しかし、それは気まぐれに生じることではなく、ちゃんと規則性があることなのだ。沢山ある図法名を一々覚える必要ないが、三次元を二次元に写すにあたっての基本的事項は高等学校までの学校教育でしっかりマスターできるようにしたい。しかしながら我が文部省は、地図投影法がどうも好きでないようで、この間ずっとことあるごとに、ブレーキをかけている。
 特に二〇〇三年から実施される新しい学習指導要領の下での地理においては、中心科目になる「地理B」から体系的な地図指導が削除されている。ましてや地図投影法など影も形もないという嘆かわしい状況なのだ。
 学校教育で地図の基本をないがしろにしてきたツケが見事に表れているのが、このサミットの地図と言ったら言い過ぎだろうか。
 簡単に様々な世界地図が描けるパソコンソフトが普及し始めている。そうした時にこそ、地図投影法の原理をきちんと学んでおく必要があると思うのだが・・・。

●地名表記や地図表現にも問題あり。
 この地図には他にも沢山問題があるこのことを最初に指摘したのは、にんじんさん(ハンドルネーム)で、「山の展望と地図のフォーラム」の地図の広場においてであった(二〇〇〇年七月一二日)。上記で述べた投影法以外に次のように書かれている。「こういう地図で大事なはずの国境線が河川と同じで、区別がつかない。」「地図の西端を付け足したらしく、ミャンマーの海岸線が、途中から変。また、表記上も、首都はラングーンのまま。」他にもマレー半島がマレーシア半島となっているなど、少なくとも学校のテストでは×(または減点)になる内容がいっぱいある。
 この号が出る頃にはサミットも忘却の彼方かもしれず、このホームページも消えているかもしれない。そうだとすれば、図1は、貴重な「反面教材」になるかもしれない。世界に発信されていただけに、恥ずかしいことではあるが。
 なお、那覇中心の正しい正距方位図法による地図が図2である。にんじんさん達が作っているジオスタジオという地図投影法ソフトで描いたものである。このソフトについて詳しくは以下のサイトを見て欲しい。
 地図デザイン研究所http://www.bekkoame.ne.jp/~yo-chizu/お楽しみその二は地形図が立体的に楽しめる話題だ。

●立体視地形図の登場赤と青のセロファンなどを使った眼鏡で物が立体的に見えるのをご存じだろう。余色立体視と呼んでいる。その方式で、等高線を立体的に見ることができる地形図が開発された。「立体視地形図RB−Map」である((有)アクトオン発売)。
等高線は、国土地理院の数値地図50mメッシュ(標高)を利用して描いている。ホームページの説明からちょっと引用しよう。
「RB−Mapは、国土地理院発行の数値地図(標高データ)を用いて、等高線による従来の地形表現手法を踏襲しつつ、地形はもとより、道路、河川、地名など平面地図の記載内容をそのまま実際に遠近感が認識できる立体物として表現することを目的に制作された地形図です」。
 いわゆる鳥瞰図のような斜めからの見た立体表現ではないため、地形図本来の性質を損なうことがないという特徴がある。紙地図が持つ利便性と立体模型の地図が持つ表現性を兼ね備えており、「紙に描かれたバーチャルな立体地図」と言って良いだろう。

 五万分1地形図1枚が1000円というのも利用者には有り難い価格と言えるだろう。
 百聞は一見に如かず、ホームページにサンプル画像も載っているので、アクセスして欲しい。
アクトオンホームページhttp://www.acton.co.jp/

「楽しい地図教室」は20回を迎え、今回で閉じることになりました。この連載のおかげで、『地図のことがわかる事典』(日本実業出版社)を出版することができ、大変感謝しています。
 日本の地図をめぐる状況は、ラパン誌がこれだけがんばっているにもかかわらず(^^)、残念ながら今回書いたような面も残っています。目くじらをたてなくても、という意見もあるかもしれませんが、ビジュアルであるが故に感性に訴える力の強い地図の影響力を考えると、地図は正しく使われなくてはならないという思いをますます強くしています。
 地図はその国の文化水準を反映しているといいます。二一世紀の日本が本当の意味での文化国家になるために、これからも地図に関心をもっていきましょう。
 ご愛読有り難うございました。またどこかでお目にかかりましょう。
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