地図の話題 2012年10月3日 
ファイル073 新課程の高校地理教科書の地図記述の問題点(1)
 高校地理も2013年度から新課程に移行します。新しい地理は学習要素が大幅に増えました。
 地図についても、4単位科目の地理Bできちんと扱われるようになりましたが、内容は問題だらけです。
 とりあえずT書院の『新詳地理B』の巻末に掲載されている投影法の部分をご紹介します。

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(1)ゆがみ か ひずみ か
 「地図のひずみ」がスタンダードな表現と思っていましたが、他社にも、「ゆがみ」を使っているところがあります。語感の問題かもしれませんが、ゆがみ にはなじめません。
(2)「形がひずむものもある」
 ではお尋ねします。正積図法で、形がひずまないものもあるのでしょうか? 揚げ足取りですが・・・(^_^;)。
A
「形が正確」とは
 サンソン図法の項で、「低緯度の中央経線付近で形は正確」と書いてあります。地図において「形が正確」とはどういうことでしょうか。いきなり大問題です。地図の世界において、正確というのは、その通り、ということですね。しかし、地図は球面を平面にうつすので、必ずひずみ(歪み)が生じます。その通りに、ということはありえません。但し、平面とみなしてよい狭い範囲ならそれは可能です。ということは、世界地図レベルの話の時には形が正しいかどうかという議論はふさわしくないのですが、とりあえず次のように考えることにしましょう。正しい形というのは、地球儀の真ん中の部分を見た時の形。
 幸いそれが表現できる図法がありました。正射図法です。
 地図投影法ソフト「ジオスタジオ」を使って描いてみました。上記掲載の地図は低緯度の中央経線付近が海なので、アフリカが中央に来るように中心を変えてみました。
 下がその図です。左がサンソン図法、右が正射図法によるものです。区別がつかないほど同じに見えますね。とりあえずは「低緯度の中央経線付近で形は正確」という記述は良いことにしましょう。
中央経線東経20度 標準緯線0度
B
モルワイデ図法のひずみについて
「高緯度ほど正しい長さより長めに表示される。そのため、高緯度でも比較的形のひずみが小さく」
 この記述で良いでしょうか。何か足りなくないでしょうか。このまま理解すれば、高緯度ほど実際により長めになる、つまりひずみが大きくなるのに、「そのため」、つまり結果として、ひずみが小さくなる。どういうことでしょうか。
C
正角図法について
 正角図法の説明で、「等角航路が直線となる」としています。そうなるのはメルカトル図法の正軸の場合だけです。これはメルカトル図法の説明の部分に移しておかないといけません。正角図法全般の特徴ではありませんから。
D
東京中心の正距方位図法
(1)「東京からロンドンはほぼ北北西だが、その逆は北北東である」。
 間違いではありませんが、唐突感が否めません。「南南東ではなく」とか、何か言葉を補って欲しいですね。あるいは、ロンドンから見た東京の図を載せるとか(スペース的に厳しそうですが)。
 ジオスタジオで作った図を以下に載せておきます。
E
メルカトル図法は形によるゆがみはないか
 この教科書の大きな問題が「メルカトル図法は高緯度ほど面積が拡大するが、形のゆがみはない。」という記述です。形のゆがみがないということは、「形が正確」ということです。グリーンランドを正射図法の中心において描いた形が、メルカトル図法で描いた形と一致すれば、よいのですね。もし一致しなければ、不正確、つまり形のゆがみがある ということになります。
 ジオスタジオで描いた結果は?
 左がメルカトル図法によるもので、右が正射図法によるものです。いかがでしょうか。同じに見えますか?明らかに違いますね。メルカトル図法は、「高緯度ほど面積が拡大し、形のひずみもある」のです。
 なぜこんな間違いが起こってしまったのでしょうか。以下の図をご覧ください。これは小著『知って楽しい地図の話』に掲載したものです。
 正角図法の原理は、緯線方向の拡大率=経線方向の拡大率です。つまり縦横を同じ比率でのばすのです。その説明で直角三角形を使います。同じようにのばせば、当然長さ・面積は拡大されますが、角度は同じままです。その時の形に注意してください。大きくはなっていますが、形状は同じです。従って、角が正しい=形も正しい、と考えてしまうのです。教科書が「面積が拡大するが、形のゆがみはない」と書いたのはこの考えが頭にあったからでしょう。
 正角はしばしば「形が正しい」と同義で使われることがあります。しかしそれが言えるのは微少な範囲、つまり球面を平面とみなしてもよい範囲だけにおいてです。そのことを考慮せず、世界規模に適用してしまったからいけないのです。
 考えてもみて下さい。メルカトル図法では緯度60°の時、横方向に2倍に拡大されています。従って縦方向にも2倍に拡大します。グリーンランドの南端は丁度60°くらいなので、そこでは面積は実際より4倍に拡大されています。そのグリーンランドは南北に長いのです。高緯度地方ではもっと拡大しなければなりません。北部の80°では、横方向に6倍近く拡大されているので、縦にも同じだけ拡大しないといけません。つまり緯度が違えば、拡大率は異なるのです。その積み重ねが形になって表れるのですから、個々の地点では正角性が維持されていても、できあがった図形全体で、「形が正しい」ということはありえないのです。

 コリオリの力というのがあります。台風の渦が左巻きの説明で使われますね。それは地球規模での現象に適用されますが、流しの排水時の渦の向きには影響を与えません。スケールが違うのです。この教科書の説明は、それと同じようにスケールの違いを無視した考え方だ、と言えばわかりやすいでしょうか(大きさから言えば逆の話ですが)。地図だから尚のことスケールは大事なのです(この場合のスケールは縮尺です。いわずもがなですが(^_^))。
●モルワイデ図法の「指示楕円」?がおかしい
 一番下のモルワイデ図法に赤丸がついています。どこにも説明がありませんが、ティソーの指示楕円と言われる角のひずみの説明に用いられるものと思われます。但し、同社の現行地図帳には「各図法中のは、半径1000qの範囲を示す」と書いてあるので、厳密には指示楕円ではなく、半径1000qの円かもしれません。
 それはさておき、大きさに注目してください。モルワイデは正積図法です。としたら、この円はどこも同じ大きさにならないといけないはずです。しかし、カリフォルニアのあたりにある円は小さいですね。中央経線の一番上のもかなり小さくなっています。
 これでは成績が下がってしまいます!
 念のためジオスタジオで作った正しい図を示します(半径550qの円です)。場所により円の形は変わりますが、面積が等しいことがおわかりいただけるでしょう。
 作者にお願いし、円のサイズや間隔を調整できるようにして頂きました。それをもとに、教科書と同じ5つの円がある図を作ってみました。違いが一目瞭然ですね。
 思い違いがあるかもしれません。ご指摘ください

政春尋志様、大山洋一様のご教示を得ました。御礼申し上げます。
 表紙