今更ですが、九州・沖縄サミット時の外務省作成の地図の問題点について
2020年6月
  
図1
 図1は、2000年に沖縄でサミットが開かれた際に外務省が作成したホームページの那覇中心の地図です。東~東南アジアが描かれた地図には、那覇からの等距圏が円で描かれています。2020年6月現在も掲載されています
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/ko_2000/outline/jp/okinawa/oki0101.html)。
 ベースになっている地図は、経緯線が直交しており、緯線間隔が等しいので正距円筒図法のようです。こうした図法において、等距圏は正円にはなりません。
  
図2
 図2は、那覇中心の外射図法です。地球儀を見ている状態と考えてよいでしょう。等距圏は同心円で描かれています。経線に注目してください。経線の間隔は高緯度に行くにつれて狭くなっています。その状態で、等距圏は正円になっています。
 ところで、円筒図法は全ての経線が等間隔の直線になります。つまり高緯度ほど実際より間隔が広がるのです。ということはこれを地図(円筒図法)にした時には、正円ではなく横に広がるはずです。図1のように、正円にはならないのです。
 
図3
 図3は、正距円筒図法に等距圏を描いたものです。いわば頭でっかちの円(上が大きく、下がスリム)になっていることがおわかりいただけるでしょう。
     
図4
 図4は、図1とほぼ同じ範囲にしたものです。この範囲でも等距圏が正円にはならないことがわかります。
 念のため、図4に、那覇中心の正距方位図法により等距圏(正円)を重ねてみます。

 その前に・・・。
 本来は、図1と図4を重ねて比較すべきなので、試みたのですがうまく一致しませんでした。図1が正確に正距円筒図法により描かれているのか疑問がでてきました。改めて図1を眺めてみると、北海道が縦に長すぎる感じがします(図5、6はそれぞれ図1、4より)。
図5 図6
 いちどおかしいと思うと、色々疑いたくなります。そもそも、図1の等距圏自体に大きな問題がありました。那覇から1000㎞の等距圏と、2000㎞、3000㎞の間隔が違うのです。測定していただければわかるのですが、那覇から1000㎞の範囲を切り取り、1000㎞~2000㎞の範囲に並べてみました。明らかに違っていることがわかります。
図7
 都市の距離を見てみましょう。仙台は那覇から2000㎞超になっています。図4では、2000㎞の等距圏の内側にあります。実際はどうなのか、地理院地図の計測機能で調べてみた結果が図8です。1820㎞で外務省の等距圏が違っていることがはっきりしました。
図8(地理院地図より)
 話を戻します。本来の正距円筒図法(外務省の地図は、正距円筒図法もどきなので使わないことにする)に描かれた等距圏と、正距方位図法による正円の等距圏がどの程度違うかの確認です。那覇中心の正距方位図法は図9です。

図9
 この等距圏だけを取り出して、図4に重ねたのが図10です
図10
 ベースは正距円筒図法なので(経線方向の距離が正しい)、縦方向は一致しています。違いは横方向なのですが、2000㎞以降では無視できないズレが生じています。
 ここまでの作業をしたら、「外務省の地図は、正距円筒図法もどきなので使わないことにする」と書いたものの、やはり作業をしてみたくなります。行ってみたのが図11です。随分ズレがあります。そもそも等距圏がいい加減なので、空しい作業ではあります。 
図11
 ところで、等距圏を正円にしないのは邪道です。デフォルトは正円ですから、そうなるような投影法を選択すればよいのです。それが図9で示した那覇中心の正距方位図法です。経緯線は直交せずカーブしますが、等距圏は正円になります。
図12
 図12は、図2以降で使ってきた地図ソフト「ジオスタジオ」のバックに、地図ソフト「ジオカート」で作成した地勢表現を重ねたものです。等距圏は正円に、経緯線は曲線になっています。
 図1と比較すると、経緯線の湾曲が大きな違いです。図2のような状態(図2は正距方位図法ではありませんが)を地図にすると、経緯線は直線にはならないのです。

まとめ
 外務省のこの地図は色々な点で問題があります。

1.ベースになる地図が正距円筒図法かどうか怪しいのですが、円筒図法であることは間違いありません。その時には等距圏は正円にはなりません。描いてあるのは意味のない線です。例えば2000㎞の等距圏は、実態とは離れたところを通っています。

2.そもそも4本の円は等間隔になっていません。「等」距圏ではありせん。

3.等距圏は正円で示すのが普通です。その際には、那覇中心の正距方位図法を用いなくてはなりません。

4.投影法を離れて地図表現の観点からも問題です。大陸部の河川が詳しすぎます。また緯線の右端も、揃ってはいますが、「等」距圏との関係で何とも半端です。

5.20年にわたり、このような不正確な地図を掲載し、日本(政府)の「地図力」の欠如を世界に発信し続けることは、国益を損ねることになるのではないでしょうか。今更ではありますが、経過説明をした上で、正しい地図に置き換えることを要望します。

 なお、このことは地図業界、教育界の一部では知られた話です。心ある教員、生徒は地図学習のよい教材として利用しているそうです。その意味では、今後も掲載し続けることが教育的観点からは好ましいことかもしれません。

※もっと整理して書くことができたはずなのですが、試行錯誤の経過を記したく、冗長になってしまいました。ご容赦ください。
参考小サイト  「九州・沖縄サミット時の外務省作成の地図の問題点」(2000年)
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