防衛白書の地図を地図投影法の観点から読む
2020年7月
 かつて防衛白書は、「図法警察」「投影法警察」の格好の餌食になっていました。つまり、地図投影法の観点からすれば、信じられないような誤った地図が掲載され続けており、批判されていたのです。また、地図表現としてもありえないミスが数多く存在していました。
 本文については有能な官僚が一字一句、何度もチェックをしていたのだと思いますが、地図については、全く野放しだったのではないかと思います。
 
 しかし、篤志家が批判をしたこともあって、2019年には大幅に改善されました。そして2020年には積み残しだった部分を含めてさらなる改善が図られました。まだ幾つかの点で問題が残っていますが、「図法警察」「投影法警察」の出番は基本的に無くなったと言えるでしょう。

 ここでは、どのような図法(投影法)が用いられているのかという観点から、2020年の防衛白書を見ていきます。同書には40点をこえる地図が掲載されています。検討にあたっては、小サイト「(暫定)2020年防衛白書掲載の地図の検討」をベースにしました。


1.世界地図にはゴール平射図法
ゴール図法はスコットランドの牧師ゴールが19世紀後半に発表した3つの円筒図法の総称です。特に断りがない場合にはその中のゴール平射図法を指します。
 特徴は次の通りです。
 1.緯線間隔は高緯度で広がりますが、その拡大は穏やかで極も表現できます。
 2.ミラー図法に似た形状になります。
 3.正積や正角などの正性質はありませんが、比較的歪みが小さく作図が容易なのでかつては日本でよく用いられていました。
 4.日本ではガル図法と呼ばれてきましたが、これは紹介者の誤解による可能性があり、今はゴール図法と呼ばれるようになっています(ガル図法の表記は作成者の出身地を考えると不適切です)。

 世界地図には、このゴール平射図法が多く用いられているのが特徴です。
p43
ジオカートによる
 ほかに、p55(2点)、p161、p344、p345、p381、p387、p448
 ミラー図法と似た形状と記しましたが、両者を合成してみました(ジオスタジオにより作成)。赤がミラー図法、青がゴール図法です。ゴール図法が縦方向に1割程度長くなっていることがわかります。しかし、単独で示されれば区別がつかないかもしれません。
 現在の日本ではあまり使われる図法ではありません。「かつては日本でよく用いられていました」と書きましたが、図法も時代の影響を受けます(今、「ウェブメルカトル」が全盛ということを考えると納得できます)。何故ゴール図法が用いらるようになったのか、さかのぼって調べてみる価値はありそうです。


2.広域図にはランベルト正角円錐図法
p116
 ほかに、p65、p254

 正距円錐図法も用いられています(p323)。


3.ミサイルの射程などを示す正距方位図法
p63
 他に、p96、p335

 防衛白書には不可欠の地図と言えるでしょう。それがちょっと前まではいい加減だったのですが、現在は正確に表現されています。タイトルに不確実性に対する弁明の「(イメージ)」という言葉が付加されていますが、不要です。


4.新たな図法  ロビンソン図法
p589
 未確認ですが、今まで使われていなかったと思われる図法もあります。それがロビンソン図法です。正性質はありませんが、見た目のよい仕上がりになる図法です。アメリカでは多用されています。この内容にこの図法を使う必然性があるかどうかは別にして、作成者の好みが現れていたのでしょうか(^_^)。

ロビンソン図法との合成(ジオカートを使用)
 なお、図法名については、どこにも記されていないので、地図ソフトなどを使い見当をつけました。間違いがあるかもしれません。ご容赦ください。また、40数点の地図の中には、まだ判断ができていないものもあります。何らかの形で、図法名と地図主点などを記して欲しいと思っています。
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