「防衛白書」2019年版掲載の地図の検討(骨子)
2018年版についてはこちら
2019年9月27日速報版
2019年9月30日
 2019年9月27日、2019年の防衛白書が閣議に報告され、了承されました。PDF版はこちらから閲覧、ダウンロードできます
 詳細な検討は、紙版に基づいて行います。とりあえずPDF版による検討の骨子です。
(改善された点)
1.用途に応じた適切な投影法が用いられている。
2.都市などの位置や距離が正しく表示されている。
3.スケールバー(距離尺)が表示されている。
4.稚拙な地図表現の改善が図られている。
(問題点)
1.地図のタイトルに「イメージ」という言葉が付加されている。
2.海岸線が描かれていないなど地図表現上改善すべき図がある。
3.サハリン南部、千島列島の表現に揺れが見られる。
 以下、それぞれにつき、代表例を示し具体的に述べます。項目により書き方が必ずしも統一されていない点はご容赦ください。
改善点
1.用途に応じた適切な投影法が用いられている。
例1.T−2−2−2 
 2018年版では、厳しい指摘をした。「ミサイルの射程を示す地図は、その地点中心の正距方位図法を用いるのが基本である。そうでないと、等距圏が正円にならないからである(正積方位図法でもよいが、距離が等間隔になる正距方位図法の方が望ましい)。・・・来年度版からは、射程については、地図の理論に従った正統な表現方法に改めることを要望する」と書いた。その点が改善されたことは評価できる。
以下が2018年版の図である。
例2.V−2−4−10
 那覇中心の正距方位図法になり、等距圏も正しい距離で描かれている。
下が2018年版である。非常に問題のある地図、として批判した。
批判内容を一部記す。
地図には、中心がどこかが明示されていないが、本文に「(3)オスプレイの安全性 MV-22については、12(平成24)年、普天間飛行場への配備に先立ち」とあるから、普天間基地を視点(中心)として考察する。計算にあたって、北緯26度16分25秒、東経127度45分07秒とする。
すでに述べたが、等距圏が正円となっている。従ってこの地図は正距方位図法のはずである。しかし、それにしては日本列島が長すぎる。・・・白書の地図では、東京は1500q圏の内側にあり約1400q程度になる。しかし実際には1500qを越えている。
それにしても防衛白書のこの地図はひどい。3000qの等距圏は択捉島の西部を走っているが、そこまでは2660q程度しかない。航続距離を問題にする地図において、1割以上も誤差のある地図を用いて云々しても説得力は全くない。・・・何か意図があってあえて不適切な地図を使っているのだろか。もちろん誤った地図であるということは、簡単に分かってしまうのであるから、不思議でならない。
 適当に地図をもってきて、円を描けばよいのだろうと思っているのだとしたら、誠にコワイことではある。
 
2.都市などの位置や距離が正しく表示されている。
例1.V−2−4−2
 都市の位置が訂正されている。
 下が2018年版である。「一目見て、横田、相模原、座間の位置がおかしいとは思わなかったのだろうか。まあ思わなかったから、今年もこんな地図になっているのだが。いつからこうなっているか、バックナンバーをたどって欲しい」と書いた。
例2.V−2−4−3
 下が2018年版である(赤字はコメント)。距離が訂正され、図法も別なものになっている。経緯線、スケールバーも記載されている。
3.スケールバー(距離尺)が表示されている。
.V−2−4−7
 下にスケールバーが示されている。
 下が2018年版である。縮尺と方位の明示は地図表現の基本である。方位は何も付けないときは北が上であるので、方位記号を必ずしも記さなくてもよいが(その場合は北が上)、縮尺(スケールバー)は不可欠である。防衛白書は縮尺表示がないのが特徴であった。ようやく、基本に即した地図表現がなされるようになった。
 なお、地図は場所により縮尺は異なる。従って、スケールバーをどこに置くかは慎重に検討しなければならない。この地図のレベルなら、気にする必要はないが、広域の地図(世界地図)の場合は注意が必要である。
4.稚拙な地図表現の改善が図られている。
例.V−1−2−19
 下が2018年版である。
 18年版の批判を次のように書いていた。「数多くの引出線があり、しかもそれが交差している。引出線の交差は絶対にさけるべ大原則である。ベースになる地図の図法ももちろん問題である。チュコト半島の部分が独立国になるのは愛嬌か」。
 地図の色使いを含め改善されていることはわかるが、煩わしさを感じる。地図化が必要だろうか。表ではまずいのだろうか。何を地図化するのかという根本的な検討が必要である。
問題点
1.地図のタイトルに「イメージ」という言葉が付加されている。
 今回の特徴は、多くの図のタイトルに「(イメージ)」が付いていることである。「中国(北京)を中心とする弾道ミサイルの射程」、「オスプレイの有用性(イメージ)」等など。
 一般に「イメージ」という言葉がついている場合、正確性を保証したものではないではないという意味になるのではないだろうか。
 ツイッターで次のように書いた。
防衛白書2019年版は、地図投影法に関しては大幅に改善されています。内部の専門家がしっかり関わったのでしょう。気になるのは多くの地図に「(イメージ)」という言葉が付いていることです。正確性を追求された時の逃げ口上として使う積もりなのでしょう。
(しかし)、「イメージ」を付ける必要のないちゃんとした地図にも付いています。これは正確に作成しようとした担当者に失礼です。一方で、弁解する必要のない地図をしっかり作れ、という批判を生むことにもなります。イメージの乱発は白書のイメージを損ねてしまいます。再考を望みます。
中国(北京)を中心とする弾道ミサイルの射程」は、次のような注がついている。

 到達距離が正確なものとは限らないとすれば、「イメージ」をつけることは理解できる。
 「オスプレイの有用性」を示した地図も同様かもしれないが、距離に関してはあらかじめ「約」をつけて断っている。地図表現は十分正確なものであり、あえて「イメージ」という「断り書き」をつける必要はないだろう。そもそも地図は本質的に誤差を含んだものである。2万5千分1地形図でも意識的に記載位置を変える場合もある。しかし、「2万5千分1地形図(イメージ)」とするだろうか。

 2018年版で受けた批判に対して予め予防線をはっておく措置と思われてならない。

 地図として記載される内容が不確実なので「イメージ」をつけるのはありうることだ。しかし、ベースマップが間違っているかもしれないので、「イメージ」をつけてあらかじめ弁解をしておくのだとしたら、地図作成において不誠実と言わざるをえない。ツイッターで書いたように、今回は、防衛省内部の専門家が地図作成に関わっていると判断できる。そうした担当者の努力に水を差す表現ではないだろうか。

 イメージをつけておけば許容されるわけではない。タイトルは顔である。顔に泥を塗りかねない表現は厳に慎まなければならない。
2.海岸線が描かれていない、無用の経緯線が表示されているなど地図表現上改善すべき図がある。
例1.V−3−1−2  
アフリカや南米など交流がない(少ない)地域はグレーとなっており、水部との違いがあまりない。そのため、
海岸を認識することが難しくなり、違和感のある表現になっている。
例2.V−2−4−11
 陸部と水部の区別がつかず、横浜市、逗子市、横須賀市が違和感のある表現になっている。
例3.T−3−7−2
 該当しない国・地域は白になっているが、その部分に経緯線が記されている。果たして必要だろうか。煩雑になるだけであり、無用の線である。
 なお、下が2018年版である。クウェートがサウジアラビアに併合されているなどメディアでも取り上げられた地図である。その部分は改善はされているが・・・。
3.サハリン南部、千島列島の表現に揺れが見られる。
 サハリン南部、千島列島は「白抜き」(帰属未定)にするのか、ロシア領(ロシアと同じ色)にして国境線を引くのか、2種類の表現がある。
V−3−1−2
T−2−1−3
 どのように書くのが適切なのだろうか。国家機関が作成する文書であるので、日本政府(外務省)の方針(その見解が妥当であるかどうかはともかく)に従うのが筋だろう。外務省は「北方領土問題に関するQ&A」で次のように述べている。
  • (1)樺太上の北緯50度線、(2)北海道(宗谷岬)と樺太の間、(3)カムチャッカ半島と千島列島のシュムシュ島の間、(4)日本固有の領土(択捉島)と千島列島のウルップ島の間、の4ヵ所に線(国境線とは異なる)が引かれている。
  • 白抜き等、我が国及びロシアのいずれの色とも異なる色になっている。
 V−3−1−2はその方針に沿っているが、T−2−1−3は、色分けについては、異なった対応をしていることになる。線の種類も上とは異なっている。現大臣は、前外務大臣である。何ともではある。
 ※これは拡大しているが、見た目は小さな画像である。そのため見落としたのかもしれないが、国境という一番デリケートな内容である。画像作成時には十分識別できる大きさで作業をしているはずである。小さいので、などは言い訳には全くならない(もちろん、そのような言い訳はしないだろうが)。緊張感を持った対処が必要である。
 その他、まだまだ問題点はあるが、他日を期したい。特にPDFはそれこそ「イメージ」のようであり、紙版ではかなり変更されることがある(過去の例)。従って、紙版を入手した時点で再度検討を行いたい。2018年版で批判した内容の多くが取り入れられていることは評価したい。防衛省内部の地理・地図の専門家が力を発揮したものと思う。それにしても、何故今までそれができなかったのか、今後のためにも総括が必要と思われる。

 なお、愛知大学の近藤先生も批判的検討をなされると思う。大いに期待したい。
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