2018年度版防衛白書掲載の地図をめぐって
2018年8月30日
2018年9月11日加筆
 2018年度防衛白書が8月28日の閣議で報告されました。その白書の内容はPDF版を防衛省のウェブサイトで閲覧可能です(訂正されることがあるようです。小サイトで使ったのは、原則として2018年8月30日にダウンロードしたものです)。
 私は2006年度版の地図の誤りについて「「防衛白書」の地図は問題だらけ」という小文を発表していました。残念ながらこういう分野に関心を持ってくれる地理、地図の研究者はいなかったようですが、ようやく最近になり現れました。そのお一人が愛知大学の近藤暁夫さんです。 
 「掲載地図の誤りにみる『防衛白書』の資料的価値と防衛省の地理的知識―『平成29 年版 日本の防衛―防衛白書―』を中心に―」という論文を発表されています。これは『愛大史学』27号に掲載されたもので、愛知大学リポジトリで閲覧可能です。是非ご覧になってください。
 さて、2018年度版の地図はどうなっているでしょうか。少しは良くなっているでしょうか。近藤先生がまた詳しい分析をなさるものと期待していますが(^_^)、とりあえず気づいた点を記すことにします。
 なお、掲載されている地図を全部取り上げているわけではありません。
(加筆)近藤先生のご指摘を受けて9月11日、一部加筆しました。
これは、問題があるということではありません。大臣の背後にある世界地図が気になっているだけです。どこが作ったものか、何図法か、などです。

アンケートに答えられない(2018年8月29日現在)
アクセスするとエラーになります。

p3 ベースになる画像(写真)が何故かぼやけている。
 イメージ画像だからまあ構わないが。p28、p108にも掲載。

p4 画像の出典明記は?
 どこかに一括して書いてあるかもしれない。未確認。

p7 国の指示点の位置は会議を行った場所なのだろうか。
 
首都にするか、会議を行った場所にするか、適当か? 未確認
 インドのアッサム州が独立している!

p8 上に同じ
 アラル海はよいかな?サハリンの北緯50度線は?

p11 これは大丈夫かな?

p13 間延びした中国、四国
しかし、これは2018年8月30日にダウンロードした版では差し替えられている。私のパソコンのミスで上記の画像になったのかと思ったほどだ。とすると、これはお宝画像である。
p14 間延びした中国四国の隣
同様に訂正されている。閣議報告した内容だが、訂正されたわけだ。こういう時は改竄とは言わないのだろう(^_^;)。

p23 地図の出典にも注意したい。p49でも。
 このテーマの地図にUSGSやNOAAの地形データを使う必要があるのだろうか。内容からすれば国境線の入った「普通の」地図でよかったのではないだろうか。なまじこのような地図にすると、バイカル湖(左上端)の水部の表現がなされていないことがわかってしまうし・・・。

p26 ミサイルの射程を示す地図。
 通常はこういう地図はその地点(この場合はピョンヤン)中心の正距方位図法で表すが、これはそうなっていない。この後北京でも同様な図がでてくる。まとめて分析する。

p30 これはどうだろうか。
 クウェートがサウジアラビアに併合されている!

61 アラスカの表現の違いは何を意味しているのだろうか?
 関連して、赤い線は「軍」の管轄の区別を示しているのだろうか。とするとアフリカや、ロシアのセーベルナヤゼムリャの線は何なのだろうか。

p63 朝鮮半島の地名表記は漢字
 議政府やソウルの位置が微妙。また江華島が落ちているのはまずい。

p71 再掲

p96 北京中心
 2つの地図は、色調が異なるが、同じ図である。ミサイルの射程を示す地図は、その地点中心の正距方位図法を用いるのが基本である。そうでないと、等距圏が正円にならないからである(正積方位図法でもよいが、距離が等間隔になる正距方位図法の方が望ましい)。ベースになる地図はその都度変えなければならないが、そうなっていない。また等距圏が正円になっていない。
この地図の図法は何だろうか。出典が記してないので、作成者がオリジナルに展開したことになるが・・・。
 地図投影法ソフト「ジオスタジオ」を使って試行錯誤し以下の地図を作成した。
 p71の地図にジオスタジオで作成した地図を重ねたものである。その地図は、中心を緯度0度、東経125度とした正距方位図法を、縦方向に90%に縮小したものである。完全には一致していないが、ほぼ近い地図になっている。本当にそのような操作を加えて作成したものなのか、作成者に尋ねたいところである。
 上記地図よりサイズが少し大きいが、これがピョンヤン中心の等距圏を描いた正距方位図法である。地図の中心がピョンヤンではないので、等距圏は正円になっていない。これを縦方向90%にした次第である。
 ちなみに、ピョンヤンを中心にした正距方位図法なら、このように等距圏が正円になる。
 北京中心の等距圏を記した地図。間隔は2000q。
 来年度版からは、射程については、地図の理論に従った正統な表現方法に改めることを要望する。

p98 
 地図の枠線を入れないと、落ち着かない地図になってしまう。ハイナン島の右、台湾の下はルソン島の上半分だけが浮いている。
 よく見ないとわからないが、拡大すると、先島諸島が台湾領になっていることがわかる。これはマズイ!
p111 間延びした地図
 左側の地図は、「イメージ図」とは言え、縦に延ばしすぎである。右側の写真とのスペースでこうしたのだろうか。違和感のない図取りを考える必要がある。
 マレー半島内の境界線は何だろうか。マレーシアだけ州境が入っている不思議。

p128 北方領土の表現はよいのか?
 それとは別に、エカテンブルクの位置が違う。これはチェリャビンスクではないか。

p148 省略の仕方が不自然
 近藤先生によれば何年も前からとのこと。南スーダンは入れなければダメ。

p164 EU現加盟国は? 
 ルクセンブルクは小さいので「・」が見えないかもしれないがベルギーが抜けていてはまずい。
 それに比べれば海岸線の荒さなど可愛いもの(^_^;)。

p172 Mはキューバに見えてしまう。
 いちゃもん付けに近いが(^_^;)。島の形はつぶさずに、水部に文字を置くという配慮が必要。
 左右に分かれてしまうので難しいところだが、チュコト半島が島にならない工夫も。

p175 これは大丈夫だろうか?
 p30参照。

p285 一目見て、横田、相模原、座間の位置がおかしいとは思わなかったのだろうか。
 まあ思わなかったから、今年もこんな地図になっているのだが。いつからこうなっているか、バックナンバーをたどって欲しい。
 沖縄の形も歪んでいる。斜めに鳥瞰図風にする必要はない。

p286 スケールがないのが、防衛白書の地図の特徴。
 地図には方位と縮尺(スケール)が必須。方位は、無い場合は上が北というのがデフォルトなので判断はできる。しかし、スケールはそうはいかない。もちろん、無くても構わない場合もあるが、この地図の場合は不可欠ではないか。
 フィリピンが全く描かれていないのも問題。

p287 距離は正しいか。 未確認
 次のページには距離がでてきた(縮尺ではないが)。10km単位で距離が記してあるが、基準になる場所が明確ではない。例えばソウルとグアムは約3220kmとなっているが、グーグルマップの計測機能では、もっと小さい値になる。距離については、もう少し慎重な配慮が必要である。
 カリマンタン島が消えているのは何故? 国境線は朝鮮半島だけなのは何故?
 何図法を使っているのだろうか。

p288 沖縄
 省略された島がある。

p291 沖縄はこれでよいか
 図法は? 伊江島は? この地図も省略された島がたくさんある。

p294 スケールが欲しい!
 ほかには、白抜きの地域は何なんだろう。説明が欲しい。

p296 部分図と拡大図の表現(指示)の仕方
  左上の沖縄本島の南部に○がついているが、地図は四角の中に描いてあるのだから、それも四角にすべき。これでも間違いではないが、丁寧な作業をしていないことがわかってしまう。わかればよいだろうは、堕落の証拠。
p298 非常に問題のある地図
 地図には、中心がどこかが明示されていないが、本文に「(3)オスプレイの安全性 MV-22については、12(平成24)年、普天間飛行場への配備に先立ち」とあるから、普天間基地を視点(中心)として考察する。計算にあたって、北緯26度16分25秒、東経127度45分07秒とする。
 すでに述べたが、等距圏が正円となっている。従ってこの地図は正距方位図法のはずである。しかし、それにしては日本列島が長すぎる。ジオスタジオで作成し、500q毎の等距圏を描いたのが下の地図である。
 白書の地図では、東京は1500q圏の内側にあり約1400q程度になる。しかし実際には1500qを越えている。
 正確に距離を測る方法は色々あるが、地理院地図の計測機能を使えば簡単にわかる。その結果は下の通りである。
 1545qである。
 それにしても防衛白書のこの地図はひどい。3000qの等距圏は択捉島の西部を走っているが、そこまでは2660q程度しかない。航続距離を問題にする地図において、1割以上も誤差のある地図を用いて云々しても説得力は全くない。
 実は昨年度も、これに関わる地図は怪しげであった(近藤論文を参照)。何か意図があってあえて不適切な地図を使っているのだろか。もちろん誤った地図であるということは、簡単に分かってしまうのであるから、不思議でならない。
 適当に地図をもってきて、円を描けばよいのだろうと思っているのだとしたら、誠にコワイことではある。

p316 領海の表現は問題ないか
 曖昧な絵を描かないで、下に示した海洋情報部の地図をそのまま使った方がよい。島嶼部の領海や接続水域の表現が「了解」できていないようだ。
海洋情報部のウェブサイトより

p318
 隣り合った図なので、スケールや範囲、表現方法を揃えるなどの工夫が欲しい。

p321
 本州を重ねているのは、距離をイメージする上で悪い表現ではないが、一応、断る必要がある。なお、こうした表現をするには厳密には図法の検討も必要である。

p344 稚拙な地図表現の見本
 数多くの引出線があり、しかもそれが交差している。引出線の交差は絶対にさけるべ大原則である。ベースになる地図の図法ももちろん問題である。チュコト半島の部分が独立国になるのは愛嬌か。

p346 回数に関わることを非正積の地図をベースにして塗ることに問題はないか
 サハリンの南半分は白抜き。その精神がようやく表現された地図。
 インドやマレーシアは領域が狭まっている(^_^;)。

p350 国の引出線はどこを基準にするか
 首都を原則とするのがよいが必ずしもそうなっていない。理由があるのかないのか。

巻末の地図1
 方位が振ってあるので(上が真北ではないので)わかりにくいが、竹島の位置がかなり違う。近藤先生によれば、21年連続とのこと。
ざっとだが、どのように違うかを、地理院地図と重ねてみた。許容できないズレということがわかる。デリケートな竹島が、こんな表現で良いのだろうか。愛国団体は気にしないのだろうか(^_^;)。
 同じく、近藤先生によれば尖閣諸島も21年間間違ったままという。にわかには信じられないが(いや、今までの経過からすれば十分信じられるが)、同様に地図を重ねてみた。
 今回は、部隊のある宮古島、久米島、沖永良部島に点を打ち、重ね合わせが正確になるように行ってみた。その結果が下の地図である。防衛白書の示す尖閣諸島と実際の位置がこれほどまでに違うのは驚きである。
巻末の地図2

巻末の地図3
 幾つか記載されていない島がある。
 色々なレベルの誤り、不適切な表現があることがおわかりいただけただろう。地図学・地図投影法についての基本的な知識が欠如していることによると思われる問題もあるが(p71、96、298)が、多くは「地図帳を片手に検討すれば中学生でもわかる水準の「誤り」」(近藤論文)なのである。また、機械的作業として、サハリン南部が白抜きになっているか(日本政府の発行する文書なのだから)確認すればよいのである。更に、「絵」として見やすいかどうかの判断(p344)は、決して高度な知識、技術が必要なことではないだろう。
 それがなされていないのは、地図に対するリスペクトがないからである。地図はおまけ、添え物、文字通りのカット図にすぎない、という認識が根底にあるからだろう。それなら地図を使わないで欲しいと切に思う。地図に対する冒涜である。
 それにしても、チェック体制はどうなっているのだろうか。白書は国家が責任をもって対外的に発する第一級の文書である。一字一句検討するはずである。それは本文だけで、地図や図表は作りっぱなしということなのだろうか。どこもチェックをしないのだろうか。
 それに関わって深刻な問題がある。実は、かなりの間違った不適切な地図は、過年度の誤った表現がそのまま使われているのである。一つ一つの図に書いてはいないが、近藤先生の論文と比較しながら見ていただくとそのことがよくわかる。絶望的にもなる。
 相模原や座間の位置が少しずれていても(p285)何ら実害・影響はないだろう。それはその通りだ。オスプレイの航続距離を示した地図が間違っているのは(p298)、かなりヤバイとは思うが・・・。
 実害・影響をどうとらえるかによるが、話は簡単だ。明らかな間違いを公的文書に載せるべきではない。それは恥ずかしいことである。私たちは恥を知らなければならない。ウソを書いてはならない。開き直ってはならない。
 地理的認識、世界認識に正しく役立つ地図を、真剣に考える必要がある。
■9月11日追記 
 加筆の作業を通して改めて感じたことがある。沖縄に対する認識の甘さ、いい加減さである。大事な島の位置を大きく間違えたり、省略したり、適当なデフォルメをしたり、日本領でなくしたり・・・枚挙にいとまがない。沖縄に寄り添う我が首相はこのような地図を見て何とも思わないのだろうか(見ていれば、であるが)。地図はその地域に対する人びとの認識・関心を雄弁に物語るものである。一人でも多くの沖縄県民に、この実態を知って欲しいと思う。
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