マンガでわかる地政学   「はじめに」の問題点
2018年4月
 近藤暁夫さんの『「ポップ地政学」本の掲載地図批判』において「致命的な地図掲載数ワースト5」の「栄えあるワースト1位」に選ばれたのが『マンガでわかる地政学』です。
 以下は、報告掲載の「はじめに」のページです。
 近藤さんは、「正距方位図法で描かれた世界地図」がじつは正積方位図法であることを指摘されていますが、内容的にも多くの問題があります(揚げ足取りもあります(^_^;))。@〜Jの番号に沿って述べていきましょう(赤枠は近藤さんが記されたものです)。
@「学校の教室によく貼ってある」→実際に確認されているでしょうか。少なくも高等学校においては、私が勤務した1972〜2014年までどこの学校にも貼ってありませんでした。
A「経度と緯度を直線で表せるので」→航海用の地図、正角図法ということを言いたいのでしょうが、これだけでは、航海用の地図としての条件を満たしません。ミラー図法も正距円筒図法も「経度と緯度を直線で表せる」けれど、航海用の地図にはなりません。緯線方向の拡大率と経線方向の拡大率が一致することが必要なのです。なお、「経度と緯度」ではなく、「経線と緯線」とすべきでしょう。
ミラー図法
正距円筒図法   ともに経緯線は直交している。
B「太陽の位置で船の進む方向を」→言いたいことはわかりますが、せめて「羅針盤を使って」とかの表現にして欲しかった。
C「みかんの皮のように平たくむいた」→メルカトル図法についての説明としては適切ではありません。何故か? メルカトル図法はどこも切れていません(地図学では「断裂」していないと言います)。しかし、みかんの皮をむく時に、破らないで平たくすることはできないからです。
「断裂図法」の説明に使うのなら構いません。現に、「地図情報」誌144号p13には下の写真が掲載されています。「ミカンの皮をグード図法風にむいてみました」という解説がついています。
D(正距方位図法は)「宇宙から地球を見た姿に一番近い地図」→誤りです。「宇宙から」をどこと考えるかによりますが、「正射図法」が該当します(下の地図。人工衛星から見た場合は「外射図法」です)。
 北極の真上の宇宙空間から見た時に、オーストラリアは見えないですよね。しかし、Jの地図にはしっかりオーストラリアが入っています。さて・・・(^_^;)。
E「地球の反対側はうまく表せませんが」→微妙な表現です。表し方がうまくないのか、そもそも表せないのか。正距方位図法は世界全図が表せます。地球の反対側もOKです。しかし、宇宙から地球を見たら、反対側は表せるはずがありません。正距方位図法は中心から離れるにつれ形や面積の歪みは大きくなるので、そのことを「うまく表せません」と言っているのでしょうか。
F「この図法が一番正確なのです」→違います。この場合は、図法の種類ではなく、視点をどこにおくか、ということが大事なのです。次項と関わるのでGで説明します。
G「ロシアとカナダが北極をはさんだ隣国であることがはじめてわかる」→視点を北極上空におけばよいだけのことです。図法には関係ありません。グーグルアースを見てもよいのです。
ロシアとカナダが北極海を挟んで向かい合っていることがわかる(グーグルアースより)
H「地理的条件」→これが地政学の核心のようですが、地理的条件とは何でしょうか。地理学者にも尋ねたいところではありますが・・・。
I ここは情緒的な文章なので構いませんが、大国の指導者がどんな世界地図を見ているのか興味がありますね。
J「正距方位図法」→この図法がこの本で使う基本になる図法ですね。根幹になる図法です。しかし、近藤さんは、どう見ても「正積方位図法」 と書かれています。さて!
近藤さんが掲載されている図がこちらです。
これにある図法を重ねてみました。一致しました。
重ねたのは「正積方位図法」でした!
念のため正距方位図法と重ねてみましたが、当然ながら一致しません。
ということで、冒頭のたった2ページにこんなに多くの問題点があるのです。
近藤さんの論考に対して、論旨に影響のない揚げ足取りだという意見があるようですが、果たしてそうでしょうか。まともな科学論文なら、データにこれだけ不具合があれば、もうそれだけでアウトですね。

揚げ足を取られないように、足下を固めた上で、考察を重ねていただきたいと思います。

エキサイティングな作業時間でした(^_^)。
(世界地図は「ジオスタジオ」により作成しました)
田代博のホームページ