T社地図帳の投影法の説明についての疑問
2017年10月
 下は、T社の高校用地図帳です。今年度より判型が大きくなりました。それを縦にして、見ています。
 左上に、投影法名と簡単な解説が書いてあります。一般図については、基本的にどのページも同様です(今年度より始まったことではなく、以前よりずっと行われています)。その部分をアップしたものを下に載せました。
 投影法名説明のアップ
ランベルト正積方位図法(面積が正しく、全体としてひずみが小さい。)
この説明の後半は、ひずみについて考えさせてくれます。
「ひずみ」は具体的にどのようなものを指しているのか? 
 地図投影法の専門書(政春『地図投影法』朝倉書店p39)から、ひずみについて書いてある箇所を抜き出してみます。
 地図投影には地球上の図形のひずみが避けられないが、・・・球面・・・上の図形の性質の一部が投影で保存されると都合がよい。・・・保存される図形的性質には、面積と角度の2種類がある。・・・正積図法・・・。・・・正角図法・・・。
 このほか投影に際して保存される図形的性質に由来する用語として正距図法・・・、方位図法・・・がある。
 同書の索引にはひずみの項に、
角(の)−、長さ(の)−、面積(の)−
 と書かれています。
 つまり、ひずみと一言でざっくりという時は、図形、つまり形であり、そのひずみは具体的には、面積、角度、長さ(距離)、さらに方位があるということになるのでしょう(方位はいささか微妙ではありますが)。
 このことは、投影法を「性質」から分類する際に、上記引用にも出てくるように、正積図法、正角図法、正距図法、正方位図法とすることと符号します(3次元を2次元にするので、形がそのままになる=「正形」はありません。ありえません)。
 さて、上記の説明文について、です。

 正積方位図法なので、面積と方位のひずみはありません。とすると、角度と距離のひずみがあるが(いうまでもなく、ひずみのない地図はありません)、それが「全体として」「小さ」なひずみになっているということになります。しかし、わかったような、わからないような・・・。「全体として」は何を意味しているのでしょう。個々に見ると色々あるが、トータルではまあ問題ないよ、というのが「全体として」の普通の使い方と思いますが、ランベルト正積方位図法全体について、そう言ってよいのでしょうか。

 北米大陸の形のひずみは、十分に大きいのではないでしょうか。そもそも、この説明で、ひずみは具体的にどのようなものを指しているのでしょうか。ざっくりと、見た目、形と思います。とすると、このページの場合、北米大陸は見慣れている形と随分違っており、ひずみは十分に大きいと言わざるをえないのではないでしょうか。

 この地図帳の投影法についての説明は、個々のページ(表現された範囲)によって説明を変えてはいません。どのページもその投影法については同じ説明です。実はそういう説明の仕方が良いのか大いに疑問のあるところですが、一旦おいておきます。

 ランベルト正積方位図法の一般的な説明として、「全体としてひずみが小さい」という表現はこのページの図にあるように不適切と思います。しかし、それでもこのページの中央部のひずみは大きくないので、「全体として・・・小さい」ということなのでしょうか。それが通るなら、どんな地図も「全体としてひずみは小さ」くなり、このような説明を入れる意味はありません。
 念のため、ジオスタジオでランベルト正積方位図法の世界全図を作成してみました。地図主点(中心)の経緯度は次の通りです。 北緯15度、東経105度。
 周辺部の形のひずみが大きくなるのは世界全図が表現できる正積方位図法、正距方位図法の宿命です。
 なお、地図帳には地図主点(中心)の経緯度は表示されていないので、見当をつけて作図しました。 地図の実態に即さない説明をするよりも地図主点(中心)を示すことの方が重要であると思います。現にそうしている地図帳もあります。

 何点か使われている正距円錐図法の説明では、「標準緯線にそった距離が正しい」と書いてあるものの、どの緯線が標準緯線になるのか、示されていません。不十分な説明と言わざるをえません。
●とりあえずのまとめ
 ランベルト正積方位図法の説明として「全体としてひずみが小さい」とするのは、「ひずみ」の定義にもよるが、少なくともこのページの説明としては、不適切である。
 市場占有率が高く、影響力の大きい地図帳です。再考、再検討をお願いしたいと思います。これが検定済教科書であることを付記しておきます。
 形のひずみに関わって、形が正確と言われることがあります。このことについては、こちら をご覧ください。